
現場発の治療…決断の日々 県立広島病院・呼吸器センター長 石川暢久医師
2021/1/24
新型コロナウイルスの感染者が国内で初めて確認されてから1年がたった。長引くコロナ禍に対峙(たいじ)しながら、私たちの暮らしを支えている「命守る人」を追う。
現場発の治療…決断の日々
県立広島病院・呼吸器センター長 石川暢久医師

病室、頻繁には入れない
表情は苦しくなさそうか。息は荒くないか。ベッドに横たわる患者に、真剣なまなざしを向ける。県立広島病院(広島市南区)の専用病室。呼吸器センター長の石川暢久医師(52)は防護服で身を包み、新型コロナウイルス感染症で急変していないか、神経を研ぎ澄ませて診察する。感染対策のため病室には頻繁に入れない。だから病棟の詰め所では、看護師の気付きに耳を傾け、モニターをにらむ。患者の姿が映し出され、血中酸素や心拍数なども分かる。息をつくのは、悪化していた症状が快方に向かう「ピークアウト」を確信した時。「この人はたぶん大丈夫」と少しほっとする。

「東京に劣らぬ治療をと決めた」
新型コロナには現時点で確立された治療法がない。「そんな病気の人がどんどん増えているというのは恐ろしいこと」と語る。自身も昨夏までは、治療に確信を持てずにいらいらした。だが、難しい病気を治したくて呼吸器内科を選んだはず。手をこまねいてはいられなかった。試行錯誤している全国の病院の医師たちと電話やメールで情報交換を繰り返した。どの抗ウイルス薬を選ぶか、炎症を抑えるステロイドをいつ投与するか…。まだ論文になっていない現場発の治療法を吸収。「医者になるとき、広島でも東京に劣らない治療をすると決めましたから」。薬物療法のやり方を院内で共有。重症になりそうな人が良くなっていくようになった。

災害並みの体制 重い負担
治療に情熱を傾けながら、コロナ対応の司令塔としては泰然自若としてたじろがない。昨年12月初め、高齢者施設のクラスター(感染者集団)が発生した時も県の要請に応え、異例の15人の同時受け入れを決断した。「うちしか受けられない。頑張るしかないな」と。入院患者の累計は約330人で、高齢で持病のあるハイリスクの患者を受け入れる要の一つだ。病院は災害並みの体制を敷き、スタッフの負担も重い。ある病院職員は「石川先生でなかったら、これほどスタッフがまとまらなかったかもしれません」と打ち明ける。

石川医師は「新型コロナの診療を始めてから努めて明るく振る舞ってます」と明かす。職員にはとにかく辞めないでほしいのだという。病院一丸にならなければコロナ禍は乗り切れないと思うから。
もう1年ほど会食から遠ざかっている。「平穏な日はすぐには来ないでしょう。でも、せめてこの年末には仲間と忘年会くらいはしたいよね」。コロナが収束し、遠慮なく杯を合わせられたら―。その日まで、院内で格闘を続ける。(衣川圭)

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