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ワクチン接種 医師・会場、確保できるか

2021/1/25 6:36

 新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない中、政府は早ければ2月下旬のワクチン接種開始へ準備を急ぐ。

 医療従事者から順次開始し、5月には一般の人にも広げる想定だ。しかし厚生労働省の内部には「非現実的だ」との見方もある。体制づくりに難題が山積しているためだ。

 接種に当たる医師や看護師の確保はもちろん接種会場をどうするのか―。主体となる自治体は頭を抱えている。

 医療現場はコロナ患者の治療や検査などですでに逼迫(ひっぱく)しており、崩壊の危機にある。その中で自治体にとっては「未経験の大事業」となる。収束を急ぐのは当然だが、スケジュールありきでは混乱を招く。政府は自治体と綿密に調整し、地域の実情に沿って財源やノウハウを支援する必要がある。

 米ファイザー社のワクチンは早ければ2月中旬にも承認される。政府は下旬から安全性調査を目的に、まず医療従事者1万人に先行接種する考え。さらに3月中旬には新型コロナ患者の診療や搬送に携わる医療従事者370万人に接種を始める。同時に、65歳以上の高齢者に「接種券」を配布し、3月下旬から接種というスケジュールだ。

 優先対象でない、一般の健康な人の接種は、高齢者の大半が2回目を打った後とされているが、5月頃には始めるとの想定が出てきた。コロナ対策への批判や内閣支持率の落ち込みに焦る政権内で浮上したようだ。

 もちろん国民の多くが早く接種できるに越したことはない。しかし課題があまりにも多い。

 接種には実際どのような課題があるのか。共同通信が都道府県庁所在地で調査すると多くの自治体が人員と会場を挙げた。中でも8割の自治体が「接種に当たる医師や看護師らスタッフの確保」と回答。次いで「接種会場の確保」が多かった。

 コロナ禍の前から医師不足に悩んできた地方にとっては、当然の懸念である。

 地域の医師が交代で接種に当たることになるだろう。勤務する医療機関の休診日などを調整してシフトを組む必要がある。それぞれコロナや一般の患者を診療している中、ワクチン接種は負担となるのではないか。

 感染対策を万全に施した会場の手配、設営も必要だ。接種後の体調観察に15分以上待機できる場所も用意せねばならない。

 マイナス75度の超低温保管が必要な点も難題である。市区町村の拠点病院で保管し、周辺会場に配送、接種という流れにはきめ細かな運用が求められる。

 先行する欧米も接種に際してさまざまな問題点が出てきて思うように進んでいないようだ。

 公衆衛生史上初めての一大事業となる。菅義偉首相は河野太郎行政改革担当相を「ワクチン担当」としたが、ワクチン確保の時期で官房副長官と食い違いが露呈。意思疎通の乏しさには不安を覚えざるを得ない。

 「コロナに打ち勝った証し」と強調してきた東京五輪開催へワクチンの迅速な接種によってめどを立てたいという思惑も、首相にはあるのかもしれない。

 とはいえ、ワクチン接種に最も重要なのは安全性の確保だ。円滑な実施へ、政府は省庁間の調整を早急に図り、さらに自治体や医師会、輸送業者との連携を進めねばならない。 

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