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坂本スミ子さんと「楢山節考」

2021/1/25 6:36

 「デンデラ野」とは不思議な響きだ。道しるべにもそうあった。岩手県遠野市を旅した折に足を運んだ。この民話の里には「かっぱ淵」まであり奇譚(きたん)には事欠かない▲柳田国男の「遠野物語」に、昔は60歳を超える老人は蓮台野(れんだいの)に追いやる習いがあった―という一節が見える。蓮台野がデンデラ野を指す。だが、その地はそう奥ではなく日中は里に下りて耕す―と語りは続くと、読み手はほっとする。隠居の話かと▲今村昌平監督の映画「楢山節考(ならやまぶしこう)」は紛れもなく棄老の悲話である。息子に奥山に捨てられる老母役は坂本スミ子さん。きのう訃報を聞く▲貧しい村には口減らしのおきてがある。老母も日頃から楢山参りを願い、わざと歯を折って老人らしく見せる―。とは筋書きだが、坂本さんは本当に前歯を削って役に臨んだ。息子役が同世代の緒形拳さんだったからか。降りしきる雪の中の、親子の別れには誰しも涙しただろう▲坂本さんが<夜が明けて手さぐりをしてみた>と歌う「夜が明けて」は大ヒットした。作詞のなかにし礼さん、作曲の筒美京平さんは既にいない。どこか艶っぽい昭和の歌い手が追うように。曲は続く。<ぬけがらのとなりにはだれもいない>

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