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「カジノ」整備基本方針 いま一度是非を考えよ

2021/1/27 6:40

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備に関し、政府が基本方針を決定した。誘致を進めたい自治体にとって環境が整った。IRを巡る汚職事件や、新型コロナウイルスの感染拡大で遅れてきた事業が、これで動きだすことになる。

 方針は「世界中から観光客を集め国内各地に送り出し、国際競争力ある滞在型観光を実現」「2030年に訪日客を6千万人とする政府目標の達成を後押し」などと掲げる。

 しかし感染は広がる一方で、新型コロナ収束後も観光客がどの程度戻るかは見通せない。参入が見込まれる海外事業者も苦境が続く。前提条件が崩れているのに、このまま突き進むのだろうか。

 そもそも賭博を経済成長や地域活性化の起爆剤にしようという事業である。いったん凍結し、是非を含めて考え直すべきではないか。

 政府は自治体からの申請をことし10月〜22年4月まで受け付け、有識者委員会の審査を経て最大3カ所選ぶという。これまでに横浜市、大阪府・市、和歌山、長崎両県が誘致を表明し、事業者の公募を始めている。日本ではカジノが違法だったため、運営のノウハウを持っておらず、海外事業者の参入なしには成り立たないという。

 しかし世界のカジノ事情はコロナで一変し、事業者の売り上げは落ち込んでいる。日本での開業を目指していた米国の事業者が撤退を表明したり、事務所を閉鎖したりする動きもある。

 住民による反対の声も大きい。横浜市では誘致に反対する市民団体が法定数の3倍を上回る約19万3千人分の署名を集め、是非を問う住民投票条例を市議会に請求した。結局自民、公明両会派が否決したものの、市民団体はギャンブル依存症や事業利益の大半が海外資本に流れる問題などを指摘している。そうした懸念にもしっかり耳を傾ける必要があろう。

 汚職という大問題も、片付いていない。内閣府のIR担当副大臣だった衆院議員秋元司被告が収賄罪で起訴された。贈賄側に裁判での虚偽証言を求めたとして組織犯罪処罰法違反(証人等買収)の罪にも問われている。共謀した経営コンサルタント会社代表らは、相次ぎ有罪判決を受けている。

 今回の方針には「国や都道府県は不正防止を徹底する」と明記された。政府は事業者との面会は原則として庁舎内で複数の職員が対応し、記録は10年間保存するとした接触ルールも策定した。しかし現在贈収賄双方が司法の場で裁かれ、全容解明をしているさなかである。裁判の終結を待って検証が必要だ。

 ギャンブル依存症の増加や生活環境の悪化を懸念する声も根強い。18年に成立したIR整備法は、日本人客の入場を週3回、月10回に制限―など対策を規定する。政府は整備地域の審査基準でも施設の設備水準や雇用創出などの経済効果に加え、依存症対策を挙げる。だが効果は未知数である。

 何より、世界規模でコロナが猛威を振るい、国民が命の危機にさらされている今、優先される事業だろうか。収束後の経済活性化は必要だとしても、カジノの施設でなければいけないのか。誰のための施設なのか。立ち止まって考え直すべきだ。

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