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コロナ禍と春闘 賃上げの流れ、止めるな

2021/1/28 6:00

 新型コロナウイルス禍の収束や景気の先行きが見通せない中で、2021年の春闘が事実上スタートした。

 産業界のまとめ役である経団連は、コロナ禍に伴う経営環境の悪化を理由に、業種の横並びや一律の賃金引き上げは「現実的でない」と難色を示す。

 業績回復が見通せない企業は「事業継続と雇用維持が最優先」とし、基本給を底上げするベースアップ(ベア)は困難だとする。さらに十分な利益を上げている企業でも、ベアは「選択肢」との姿勢にとどめる。

 企業ごとの判断に委ねる考えなのだろうが、安易な賃上げ抑制は容認できない。経営側には雇用を維持しながら、業績に応じた最大限の賃上げ努力が求められる。

 対する連合は、ベアを2%程度引き上げ、定期昇給を含めて4%の賃上げを目指す。コロナ禍でもこれまで通りの要求水準を維持したが、産業ごとに「最大限の底上げに取り組む」との方針も示し、業績悪化に苦しむ業種に配慮をにじませた。

 旗振り役だった自動車業界でも要求方針にばらつきが出ている。トヨタ自動車グループの労組はベアの統一要求を見送った。マツダやホンダの労組も8年ぶりにベア要求を見送る。

 これまで業種ごとに統一の要求額や目安などを掲げて交渉に臨み、全体の賃上げ水準の底上げを図ってきた春闘のスタイルが変化しそうだ。

 コロナ禍で企業が受けた影響は一様ではない。業績の二極化が鮮明になっている。

 航空や旅行、飲食など業績悪化が深刻な企業にとっては、賃上げへのハードルは決して低くはあるまい。まずは雇用の維持に全力を挙げてもらいたい。

 だが一方で、デジタル化や「巣ごもり」などの需要をうまく取り込んで業績を伸ばしている企業も目立つ。

 安倍晋三前首相が第2次政権を発足させて以降、政府が経済界に賃上げを求める「官製春闘」が続いている。2014年からは7年連続で2%以上の引き上げを実現している。その流れを止めてはなるまい。

 賃金抑制の動きが強まれば、個人消費が落ち込み、一段と景気が悪化しかねない。経済の好循環を生んでデフレから脱却していくためには安定した賃金の上昇が欠かせない。

 企業の内部留保は19年度末で475兆円に達した。今も相当な剰余金を蓄えている企業は多い。余力のある企業は賃上げを継続させることが責務だろう。

 コロナ禍の影響で失業や収入減に直面している働き手の多くは非正規労働者とされる。

 連合は雇用形態による格差の是正も今春闘の方針の柱に掲げる。働き手の4割を占める非正規の待遇改善は急務だ。

 産業別の労働組合が傘下の個別労組の交渉を支援するなど工夫が求められる。とりわけ医療や介護、物流など社会生活を支える職場の待遇改善を加速させる必要がある。

 コロナ禍を機に多くの企業でテレワーク(在宅勤務)などが広がっているが、労働時間管理の難しさや生産性の低下などを懸念する声も上がる。

 コロナ後を見据え、多様な働き方やその賃金の在り方についても、労使で真剣に協議する必要がある。

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