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ロシア反政権デモ 弾圧では不満消えない

2021/1/29 6:54

 「皇帝」にも例えられるプーチン大統領の強権政治に対し、ロシアで先週、近年にない規模の抗議デモが繰り広げられた。首都モスクワをはじめ、全土の100都市以上に及んだ。

 反体制派ナワリヌイ氏の釈放を求めるデモである。毒殺未遂に遭い、療養先のドイツから帰国した直後に逮捕された。人権団体によれば、当局に拘束された参加者は全国で3500人以上に上るという。

 長期政権で固定化する貧富や地域格差をコロナ禍が増幅し、不満に火をつけたのだろう。9月に下院選を控え、反政権運動は勢いを増している。対応次第で混乱はさらに広がるだろう。直ちに釈放すべきである。

 ナワリヌイ氏は昨年8月、国内線の機内で重体に陥った。体内から、旧ソ連時代に開発された猛毒の神経剤が見つかったため、ロシア特務機関の関与も取り沙汰されている。

 ロシア政府は否定するものの、見方を覆す証拠を示せていない。関与を疑われても仕方あるまい。

 プーチン政権に歯向かう相手には、これまでにも毒が盛られた例が目立つ。英国に亡命した元情報機関員はホテルでお茶に放射性物質を盛られ、死亡した。政権批判を続け、後に射殺された女性記者アンナ・ポリトコフスカヤさんも機内で紅茶に毒を盛られたことがある。

 ナワリヌイ氏の事件も含め、真相解明に背を向けたままでは疑念は決して消えない。

 プーチン氏自身はといえば、昨年の憲法改正によって最長2036年まで続投可能となり、「終身大統領」への道が敷かれた。おまけに、退任後の刑事免責の特権まで明記した関連法も成立させている。

 一方で、政権支持率はこのところ、過去最低の水準に低下している。クリミア併合を受けた欧米諸国からの制裁に加え、原油価格の落ち込みも相まって景気は悪化した。専制の度合いを強める政権の長期化で、国民の間に抑圧感や息苦しさが広がっているのだろうか。

 「プーチン宮殿」も、国民の不満を逆なでしたに違いない。ロシア南部の黒海沿岸に立つ1400億円相当ともされる大きな邸宅である。インターネット上の動画で暴露したのもナワリヌイ氏の調査チームだった。

 ロシアでは、若者たちが政権批判の色を濃くしているという。今回も、デモ参加者の中核は30代前半の世代だった。

 00年のプーチン大統領就任以降に育った10代〜30代は、皮肉にも「P世代(プーチン世代)」と呼ばれる。政治宣伝に流されないのは、ネットを通じて情報を得ているからだろう。2年前にも大規模デモを展開し、経済低迷や政治腐敗をもたらした長期政権を矛先にした。今後も動向が注目される。

 ナワリヌイ氏の逮捕を巡っては、日本など先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)の外相が即時、無条件の釈放を求め、非難の声明を出している。バイデン米大統領も、就任後初めて行ったプーチン氏との電話会談で懸念を伝えた。

 多様な勢力の声を反映させる民主的な政治こそ、ロシアには求められていよう。力による弾圧では国内の反発は言うまでもなく、国際社会からの孤立を招くだけである。

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