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広島県のPCR検査 今なぜ必要、説明尽くせ

2021/1/30 6:46

 広島県が広島市内全8区のうち、新型コロナウイルスの感染者が多い中、東、南、西の4区の住民と、区外からこれら4区に来て働く人を対象に大規模なPCR検査を計画している。

 症状のある人や、感染者の濃厚接触者を対象にした検査ではなく、無症状の人を念頭に置いている。症状がないため気付かぬうちに他人に感染させている恐れがあるからだ。任意で受けられ、自己負担はない。対象となる70万人のうち、実際に受けるのは約28万人と県は見込む。国内では例のない規模となる。

 ▽数少ない選択肢

 突然の計画表明だったこともあって、無用な混乱を招かないよう配慮が欠かせない。計画の詳細をはじめ、今なぜ、これほど大規模な検査が必要か、どんな効果が期待できるのか、県には丁寧な説明が求められる。

 大規模検査の必要性について湯崎英彦知事は「感染拡大を抑え込む、残された数少ない選択肢だ」と強調する。確かに、実現すれば疫学的知見が得られそうだ。感染傾向の分析や他国との比較ができるかもしれない。自己負担がないこともあって受けたいと思う人もいるだろう。

 とはいえ、大量検査を実施するには、さまざまなハードルが待ち構えている。

 計画では、1日約8千件の検査を2月中旬から特設する会場で実施し、1カ月程度で終えるという。しかし広島市のPCR検査は今月、1日平均で200件に満たない。今年ようやく国が認めた、複数の検体を同時に検査する「プール方式」も採るというが、スタッフや会場の確保など苦労しそうだ。

 ▽ワクチンで多忙

 ただでさえ、今はワクチン接種の準備が急がれる。保健所職員を含む多忙な医療関係者に、さらなる重荷を背負わせないよう慎重に進める必要がある。

 多くの人が「陽性」となれば、どこに隔離するかも課題である。計画通り28万人が受け、仮に陽性者が1%とすると、2800人分が必要となる。ホテルなど、今確保している千室余りでは不足しないのだろうか。

 検査自体の精度を巡る不安もある。感染者のうち一定の割合で陰性の結果が出てしまう「偽陰性」の問題だ。実際は感染しているのに陰性だったからといって、マスクをせずに外出し大人数で会食すれば、感染を広げてしまうことになりかねない。

 逆に、本当は陰性なのに陽性とされるケースもわずかながら考えられる。家族や職場の同僚などは濃厚接触者になり、要らぬ心配を与えないだろうか。

 他人に感染させる力は、発症から10日ほどたてばなくなるという。ただ検査では、その時期の人まで陽性と判断して、「隔離」を強いる恐れが残る。

 ▽巨費に見合うか

 さらに経費の問題がある。無症状の感染者を見つけ、感染拡大を食い止めるという狙い自体に反対する人はいまい。ただ県の試算では約10億円かかる。国の臨時交付金を充てる考えというが、それだけの巨費に見合う効果が期待できるのだろうか。

 そもそも無症状の感染者は広島市内にどのくらいいるのだろう。あまりいないのなら、大規模検査にさほどの効果はあるまい。まずは、5千人とか1万人程度のサンプル検査で、陽性になる人の割合をチェックしてみる手がある。陽性率が高いようなら検査の範囲拡大を検討する。そのように段階を踏んだ方が理解が得られやすいはずだ。

 全国には、医療・介護施設の職員らへの定期的なPCR検査を行う自治体がある。広島県も取り組んでいるが、一層の拡充こそが急がれるのではないか。

 感染拡大が収まりつつある広島県内で今なぜ、数十万人規模のPCR検査が必要か、県民に十分伝わっていない。政策がどのように決まったのか、その過程も不透明である。

 県は、関連経費を計上した補正予算案を2月3日開会の県議会臨時会に出す方針だ。県民が納得できるよう、説明を尽くすチャンスである。チェックする県議会の責任も重い。審議を通して、県民の疑問が解消するように努めなければならない。 

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