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【緊急連載 案里参院議員辞職】<上>説明なきまま幕引き 補選1勝へ「党利党略」

2021/2/3 23:35
参院選の期間中にあった集会で、支持を呼び掛ける二階幹事長(右)と案里被告(2019年7月8日、福山市)

参院選の期間中にあった集会で、支持を呼び掛ける二階幹事長(右)と案里被告(2019年7月8日、福山市)

 東京・永田町の参院事務局に3日午後、1通の文書が出された。2019年7月の参院選広島選挙区の大規模買収事件で、東京地裁から有罪判決を受けた河井案里被告(47)の議員辞職願。「本人から預かった物を提出した」。持参した政策秘書の男性は、言葉少なにエレベーターへ乗り込んだ。

 その3時間半後、参院本会議で辞職が認められた。案里被告は「政治的責任を引き受ける」と記したサイン入りの文書1枚のコメントを出しただけ。19年秋に最初の買収疑惑が浮上した際に「事実関係の把握に努め、説明責任を果たしたい」としたが、約束を果たさないまま1年半の参院議員生活を終えた。

 ▽シナリオ共有

 公の場に姿を現さない一方で、案里被告はこの日朝、昨年6月まで所属した自民党のある重鎮に電話し、殊勝に告げたという。「先生すみません。本日、辞職願を出しますから」

 辞職シナリオは実は、早くから党幹部で共有されていた。複数の関係者によると党幹部の1人は1月下旬、「間違いなく近々に辞める」と自信満々に周囲に語ったという。以降、党関係者には「党本部が案里被告を辞めさせるという話ができている」との見方が急速に広がった。

 党本部と案里被告の密接な関係が、その観測を増幅させた。党本部は参院選で案里被告の擁立を主導。公示後は、当時官房長官だった菅義偉首相をはじめ、二階俊博幹事長や安倍晋三前首相たち自民党の大物議員がこぞって応援に駆け付けるなど、全面的にバックアップした。案里被告は当選後、二階派に加わった。

 そんな党幹部たちが、いち早く辞職を見据えていた。なぜか―。党県連関係者たちが一様に思い浮かべたのが、国政の補選に絡んだ「党利党略」だった。

 案里被告の辞職を受けた参院広島選挙区の補選と同じ4月25日投開票で、吉川貴盛元農相(自民党を離党)の辞職に伴う衆院北海道2区と、立憲民主党の羽田雄一郎参院議員の死去を受けた参院長野選挙区の補選がある。北海道2区は不戦敗、長野選挙区は苦戦が見込まれるだけに、自民党広島県連内には「党本部は広島で確実に1勝したいとの思惑があるはず」との見方が強い。

 ▽水面下で人選

 この流れに沿い、党県連も補選の人選を水面下で加速させていた。宇田伸幹事長はこの日、県議会棟に集まった報道陣に「自民党の信頼を回復できる人を早ければ1週間以内に決めたい」と意気込んだ。

 関係者によると、党本部は、党県連が選ぶ候補者に公明党の支援を取り付ける方向で調整しているという。案里被告の擁立を主導した自民党本部と、推薦した公明党による「下話」はできていることになる。

 「有権者を裏切るようなことはしていない」。案里被告はこの日出したコメントでもなお「潔白」を貫いた。その思いをよそに、自公両党は案里被告の後任を選ぶ次なる戦いに照準を移す。「党本部に担がれ、まともな説明もせぬままに切られた」。案里被告の擁立に反対した自民党県連のある幹部はこの1年半の浮沈を冷静に振り返り、つぶやいた。「党本部の罪も深い」(樋口浩二、桑原正敏、境信重)

    ◇

 「日本を変えたい」。一昨年秋に公選法違反の疑いが発覚してからもなお政治家としての夢を語っていた案里被告が、参院議員の職を辞した。その舞台裏と責任のありかを探った。

 <クリック>2019年7月の参院選広島選挙区 自民党本部が改選2議席の独占を狙って党県議だった新人の河井案里被告を擁立し、全国有数の激戦となった。選挙戦は、党県連が推す重鎮の党現職溝手顕正氏、野党系無所属現職の森本真治氏を交えた三つどもえに。森本氏がトップ当選、案里被告が2番手に入り、溝手氏が落選した。その後、案里被告と元法相の河井克行被告による大規模買収事件が発覚した。克行被告は19年3〜8月、地方議員や後援会員ら100人に計2901万円を供与。案里被告はうち4人の計160万円で共謀したとして、今年1月21日に東京地裁で公選法違反の有罪判決を受けた。克行被告の公判は続いている。

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  •  2019年夏の参院選で河井克行、案里夫妻が100人に計2901万円を配ったとされる買収事件では、選挙に絡んだお金のやり取りが浮き彫りとなりました。令和の時代も変わらない「金権選挙」。皆さんの地域でも耳にしたこと、目にしたことはありませんか。体験、情報、意見をぜひお寄せください。(中国新聞「決別 金権政治」取材班)

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