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森会長発言の波紋 「五輪の顔」の資格なし

2021/2/6 6:00

 もはや「五輪の顔」の資格はない。東京五輪・パラリンピック組織委員会会長である森喜朗氏の女性蔑視発言が、国内外でなおも波紋を呼んでいる。

 森氏は日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会の席上で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などとあいさつした。その後、「不適切な表現だった」として発言を撤回し、謝罪した。会長職を辞する考えはないようだ。

 当初の発言もさることながら、その後の釈明や振る舞いまでが元首相でもある公人の立場にふさわしくない。謝罪するはずの会見で気色ばむなど、事の重大性を自覚していない。

 自らの発言がどれだけの影響を及ぼすのか分からない人に、今の立場は任せられまい。即刻辞任する選択肢しかない。

 見逃せないのは、JOCの女性理事の比率を20%から40%に引き上げる目標が報告された会合での発言であることだ。明らかに、JOC理事に女性を増やすべきではない、という趣旨と取れる。しかも、女性の比率を引き上げた場合には「発言の時間をある程度規制しないと終わらない」と続けてもいる。

 全くもって森氏の発言趣旨は五輪の理念と相いれない。

 五輪憲章が定める権利と自由は、いかなる種類の差別も受けることなく確実に享受されなければならない、とされる。さらに国際オリンピック委員会(IOC)も女性の地位向上を支援しているほか、東京五輪そのものが「多様性と調和」を、大会ビジョンに掲げているではないか。異論を封じ込めるような発言の部分もまた看過できない。

 スポーツに限らず、男女格差の是正を巡る日本の動きは世界に後れを取る。政治家や企業役員の一定数を女性に割り当てる制度を導入した国もあって取り残されるばかりだ。指導的地位に就く女性の割合を「2020年までに30%程度」とした政府目標も先送りされた。

 個人的な思い込みにすぎない森氏の発言が一連の男女共同参画推進の政策にブレーキをかけ、この分野での日本への国際的評価をさらに失墜させることになろう。「文科省(文部科学省)がうるさく言う」との発言も、政府目標など一顧だにしない姿勢の表れではないか。

 国内世論の大勢は、コロナ対策を最優先の課題とみて、この夏の五輪には疑問符を付けている。とはいえ東京五輪の準備は無観客または無観客に近い規模でも開催する方針が固まり、IOCの主導で政府、東京都、組織委は連携を強めてきた。

 それだけに森氏の発言は、開催へ努力してきた関係者や開催を目標としてきたアスリートにとっては衝撃だろう。ボランティアを辞退する動きも出始めているほか、東京都に抗議電話が殺到しているという。東京五輪のイメージは明らかに傷ついた。開催に懐疑的な世論が勢いを増す可能性も十分ある。

 菅義偉首相は「あってはならない発言」などと国会答弁するにとどまり、指導力を発揮していない。森氏の謝罪と発言撤回を受けて、IOCは火消しに回っているほか、山下泰裕JOC会長も、職責を全うしてほしいと述べているが、感覚を疑う。

 火種は依然くすぶっている。国内外の世論を見誤るべきではない。 

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