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愛知のリコール不正 許されぬ、卑劣な行為だ

2021/2/10 6:46

 民主主義と地方自治制度を揺るがす悪質な行為が明らかとなった。愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡り、選挙管理委員会に提出された署名約43万人分のうち、実に83%が不正なものであり、無効と判断されたのだ。

 36万2千人分にも上る規模から見て、組織的な不正に違いあるまい。事態を重く見た県選管が地方自治法違反容疑で刑事告発を検討しているのも当然だ。経緯や意図などを明らかにし、厳しく罰さねばならない。

 署名には住所や名前、生年月日に加え、押印もしくは指印が要る。県選管の調査によると、無効と判断した署名の約9割が同一の筆跡とみられ、半数近くは選挙人名簿に登録されていない人の署名だった。既に亡くなった人の名前も含まれていた。信じ難い内容の不正である。

 古い選挙人名簿や各種団体の名簿を悪用した可能性がある。取りまとめ役の指示による組織的な偽造が疑われる。

 リコール運動は昨年8月、美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長が呼び掛けた。芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の展示作品などに不満を持ち、大村知事の対応を批判していた。さらに名古屋市の河村たかし市長も運動に加わった。

 大村知事解職の賛否を問う住民投票の実施には、約86万6千人分の署名が必要であり、当初から難しいのではないかという見方が強かった。

 11月、県内の各選管に署名を提出した高須氏は、その時点で「感触では80万以上は集まったと思う」と述べていた。しかし実際には署名は約43万5千人分で、必要な法定数の半分ほどにとどまった。しかも、そのほとんどが不正な署名だと今回判断されたのである。

 不正の狙いについて専門家は「リコール運動が支持を集めたと誇示するために水増ししたのではないか」と分析する。一定の成果があったと印象づけて、知事への圧力を強める意図とすれば、脅迫まがいの行為ともいえる。

 名前を無断で署名に使われたとして、同県弥富市の市議5人が容疑者不詳の告訴状をすでに名古屋地検に送っている。署名には別人の指印が押されていたという。5人のうち1人は署名集めを担う「受任者」としても記載され、複数人の署名を集めたことになっていた。

 「民意の偽造」ともいうべき悪質な行為である。警察の捜査に委ねるしかあるまい。

 リコール運動を主導した高須氏は、「不正の指示や黙認をしたことはない」と関与を否定。一方、不正が判明した調査結果には「選管があら探しをした結果だ」と述べる。また、河村氏は「私も被害者だ」などと主張している。

 何者かが勝手に不正を働いたのであり、自分に責任はないと言いたいのだろう。とはいえ、運動の主導者として、少なくとも道義的責任は自覚すべきではないか。誰が、なぜ不正をしたのか。実態を解明する責任もあるはずだ。

 地方自治法は署名の偽造に、3年以下の懲役などの罰則を設ける。直接請求制度の一つであるリコールは住民の権利で、重い意義を持つためだ。それを軽んじた今回の不正は極めて卑劣であり、許してはならない。

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