森会長が辞意 組織委は信頼回復急げ
東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が辞任する意向を固めた。女性蔑視発言が世界中から猛烈な批判を浴びて追い詰められ、辞めざるを得なくなった。
森氏の発言は、日本が人権感覚に乏しく性差別をする時代遅れな国だという印象を、国際社会に与える内容だった。辞任は当然のことである。来月の聖火リレースタートや観客受け入れの判断など、五輪はいま最重要局面を迎えている。組織委は早急に体制を立て直し、国際社会の信頼を取り戻せるよう、力を尽くさなければならない。
「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと森氏が発言したのは今月3日である。日本オリンピック委員会(JOC)の女性理事の比率を引き上げる目標が報告された場でのことだ。欧米メディアも報じ、物議を醸した。翌日、森氏は撤回して謝罪したが、反省の色が見えない振る舞いにさらに厳しい目が向けられた。
組織委や開催地の東京都には抗議が殺到し、聖火リレーやボランティアの辞退も相次いだ。共同通信社の全国電話世論調査では、森氏が会長として「適任とは思わない」との回答が、約6割にも上った。
森氏の発言は、多様性を尊重する国際社会の流れに逆行するばかりでなく、国際オリンピック委員会(IOC)の掲げる五輪精神や理念とも全く相いれないものである。
ところがIOCは当初、「森会長は謝罪した。この問題は決着した」と声明を出し、不問に付していた。歩調を合わせるように、JOCや組織委の関係者からも辞任を求める声は上がらなかった。
一方、国際世論やスポンサーからの非難は日に日に高まり、世論との温度差が際立った。そこでIOCは9日になってようやく「完全に不適切だ」とする新たな声明を出した。
各界に顔がきく森氏が会長を退けば、それでなくても新型コロナウイルスで開催が危ぶまれる五輪にとって、打撃となると考えていたのかもしれない。しかし、耳を疑うような発言に沈黙していたのでは、組織の健全性が問われよう。
それでも菅義偉首相は、森氏の発言は国益にとって「芳しいものではない」としながら辞任を促す考えはないと表明した。人事権はなくても、国益にとって好ましくないなら一国の長として促すべきだった。
自民党の二階俊博幹事長に至っては、辞任論が上がる森氏について「発言を撤回したことだし、問題はない」と強調し、続投を支持する始末だった。ボランティアの辞退が相次いでいる状況に「どうしても辞めたいなら新たなボランティアを募集する」とも述べ、国民の怒りを買った。何が問題視されているのかも理解できないのだろう。
森氏の後任は、日本サッカー協会元会長の川淵三郎氏で調整が進んでいるという。
五輪の開幕まですでに半年を切っている。この時期のトップ交代は異常事態である。しかし森氏の辞任を、幕引きではなく新たなスタートにする必要がある。組織委には大会ビジョンの「多様性と調和」に恥じない体制を築くことが求められる。男女平等という基本原則を実現する大会にせねばならない。
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