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生活保護 迷わず使える仕組みに

2021/2/14 6:36

 新型コロナウイルス禍で生活に苦しむ人たちへの対応を巡り、菅義偉首相が「最終的には生活保護という仕組みがある」と国会で答弁し、波紋を広げている。

 野党は「生活保護に陥らせないようにすることが政治の仕事だ」などと反発し、会員制交流サイト(SNS)上などでも首相を批判する声が広がった。

 生活保護が社会のセーフティーネットの役割を果たしていることは間違いない。だが厳格な資産要件など受け取りづらい制度上の問題が多く、十分活用されているとは言い難い。最後まで追い込まれなくても困窮すれば、必要な人が迷わず使えるよう仕組みを見直す必要がある。

 生活保護の申請は最初の緊急事態宣言が発令された昨年4月に約25%増えたが、その後は大幅に増えてはいない。

 生活保護基準を下回る経済状況にある世帯のうち、実際に生活保護を受給しているのは2割強にすぎないとされる。

 本来なら受給した方がいい人が、申請をためらうケースが少なくない。生活保護が「最後の安全網」として機能していない。そうした現実があるからこそ、首相の発言が反発を招いたのだろう。

 保護申請を阻む要因の一つに「扶養照会」がある。自治体が申請者の親族に対し、生活援助をできるかどうか問い合わせる。親やきょうだいに連絡が行き、生活苦を知られるのを恐れて、申請を諦める人は多い。

 東京の困窮者支援団体が年末年始に行った調査では、生活保護を利用していない人の約35%が「家族に知られるのが嫌だから」と答え、最も多かった。

 家族関係が複雑な困窮者も少なくない。扶養照会から援助につながるケースはわずか1%強にすぎないという。申請によって人間関係を壊すリスクのある仕組みを見直すべきだ。

 田村憲久厚生労働相は今国会の審議で弾力的な運用方針を示し、扶養照会も「義務ではない」と明言した。相手が家庭内暴力(DV)の加害者や、明らかに交流が断絶している場合は照会は必要ないとされる。

 それでも親族に幅広く連絡すると言って申請を暗に断念するよう仕向けるなど、一部の自治体の対応が問題視されてきた。

 扶養照会が壁になって、保護を必要とする人が取り残されるようなことがあってはならない。不適切な照会を排除するよう厚労省は申請現場の意識改革を徹底する必要がある。

 生活保護への根強い偏見も見逃せない。かねて生活保護バッシングが繰り返され、自己責任論が幅を利かせている。そのため、暮らしに困っても「生活保護だけは受けたくない」とかたくなに拒む人は多い。

 長期化するコロナ禍の影響で、苦しい生活を強いられる人がさらに増加する恐れがある。これまで貧困とは縁遠かった働き盛り世代からも仕事や住まいを失う人が出ている。誰もが困窮するリスクに直面している。

 第3次補正予算では、生活に苦しむ人への公的支援が手薄だとの批判が出た。生活保護に至るまでのセーフティーネットの乏しさも浮き彫りになった。

 首相発言で生活保護への関心が高まったことを好機と捉え、法改正を含めて制度の見直しを本気で検討すべきだ。 

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