ワクチン接種スタート 現場の不安解消、早急に
欧米より2カ月遅れて待望のワクチン接種である。新型コロナウイルスの感染拡大を収束させ、日常を取り戻す「切り札」となることが期待される。
国内で初めて、米製薬大手ファイザー製のワクチンが正式承認された。きょう医師や看護師ら4万人を対象に先行接種が始まる。政府は副反応など安全性を確認しながら、対象を順次、国民にも広げる方針だ。
前例のない規模だけに、予期せぬトラブルや混乱が生じかねない。接種が順調に進むよう、実務を担う市町村をはじめ現場の不安の早急な解消に政府は努めなければならない。五輪開催への道を開くといった思惑優先の前のめり姿勢は許されない。
というのも、接種の準備や実施が円滑に進むか懸念する国民が多いからだ。今月6、7日の共同通信社による世論調査では、接種が「順調に進むか不安がある」は82・8%に達した。
情報伝達がうまくいっていないと国民も感じているに違いない。いつ、どのぐらいの量が届くのかなど、自治体は速やかな情報提供を求めている。しかし政府は十分に応えてはいない。
確かに、ワクチンは欧州連合(EU)による輸出統制が解かれていないなど、流動的な要素も多い。しかし現場が混乱しないよう、政府には自治体の声をしっかり聞いて対応するよう、改めて注文しておきたい。
計画では、約370万人の医療関係者への接種が終わる4月以降、まず65歳以上の高齢者への接種を始める。全国で約3600万人に上る規模に加え、もし感染が拡大していれば、現場の負担は膨らみかねない。
医師のほか、冷凍庫などの設備、会場なども大規模接種には必要となる。確保に難航している自治体もあり、財政面を含めた支援態勢づくりが急がれる。
接種自体の正確な情報発信も必要だ。費用は国が負担し、国民には接種の「努力義務」が生じる。強制ではなく、罰則もないため、努力義務は課さない妊婦も含め、最終的には個々人の判断次第となる。多くの人に受けてもらうには、効果や副反応などの情報を包み隠さず明らかにしなければならない。
とりわけ副反応を気にする人は少なくないようだ。世論調査では「接種したくない」人が3割近くに達した。副反応の全くないワクチンはないのだから、効果と比べることで、不安を解消できるよう、政府は情報提供に努めることが欠かせない。
米国では、半数以上の人が接種した部位の痛みや、だるさを感じたという。だが「アナフィラキシー症状」と呼ばれる重いアレルギー反応は、20万回に1回程度と非常にまれだった。逆に、感染するのを防いだり感染しても重症化を免れたりする効果が95%の人にあったという。
もちろん、日本では異なる傾向が出るかもしれない。そのため政府は先行接種のデータに加え、本格接種後には、発熱やはれ、痛みなど300万回分の健康状態をアンケートする。丁寧に調べ、その結果を正確に伝えることで、安全性への理解を広めることが急がれる。
守るべきは、国民の命と健康であって、菅義偉政権ではない。山積する課題を一つ一つ解消して、現場が円滑な接種環境を整えられることにこそ、力を尽くさなければならない。
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