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五輪組織委会長に橋本氏 官邸主導の印象拭えぬ

2021/2/19 6:39

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の新会長は、7度の五輪出場経験を持つ橋本聖子氏の就任で決した。新型コロナウイルスが収束しない中で、五輪を開催するかどうか、開催する場合は観客を入れるかどうか、判断を迫られる立場になる。

 その結論がどうあれ、国内外を納得させる説明のできるリーダーシップが、橋本氏には求められよう。開催する場合、辞任した森喜朗前会長の女性蔑視発言によって傷つけられた、東京五輪の信頼回復も必要だ。

 しかしながら、選考に当たって強く求められた「透明性」が確保されたとはいえない。

 組織委の候補者検討委員会は御手洗冨士夫委員長以外の委員名を公表しないまま、非公開で進められた。辞任した森氏が川淵三郎・元日本サッカー協会会長を「後継指名」したことが「密室人事」だという反発を招き、会長人事が白紙に戻った経緯は一体何だったのか。検討委もまた、密室人事の隠れみのだったと言わざるを得ない。

 川淵氏への後継指名を一夜にして覆したのは、官邸の強い意向とみていい。菅義偉首相は「女性や若手」を念頭に置いていたとも報じられている。

 しかしながら組織委会長という要職は、ぼんやりした目安で決めるものではあるまい。コロナが収束しない中の五輪開催は全国民になにがしかの影響を及ぼす。島根県の丸山達也知事が聖火リレー中止を検討していることも、コロナ対策と不可分である。本来は広範な民意をくんだ人選であるべきだった。

 ワクチン接種の開始と併せ、組織委会長人選の「スピード決着」によって、政権を浮揚させたい思惑が透けて見えよう。官邸主導の印象は拭えない。

 また、政界入りして25年に及ぶ橋本氏の政治的立場に差し障りはないのだろうか。公益法人の役職との兼職を禁じた国務大臣規範に基づいて五輪相は辞任した一方で、政治家にはとどまるなら疑義が残るだろう。

 人種差別への抗議活動を容認すべきだという意見も近年あるものの、五輪憲章は五輪の場での政治宣伝を禁じている。参院議員の職は辞さない、自民党からは離党しないと述べたが、将来の処遇にこだわらず、組織委会長の職に身を賭す覚悟を示さなければ、橋本氏の言動は説得力を持つことができまい。

 日本スケート連盟会長の地位にあった当時、フィギュアスケート男子選手にキスを強要したとされる問題が、あらためて国内外で報じられていることも見過ごせない。優越的な地位や立場を利用したハラスメント(嫌がらせ)に対する目が厳しくなっているのは当然である。

 森氏の辞任も女性蔑視発言によるものだった。女性活躍担当相や男女共同参画担当相でもあった橋本氏は、森氏の発言については厳しく批判しているが、今後は自らの言動を律することも忘れてもらっては困る。

 橋本氏の就任を歓迎する声があるのも事実だ。全豪オープンで快進撃を続けるテニスの大坂なおみ選手は「やっと(女性に立ちはだかる)障壁が崩れてきたのね」と賛意を示した。だが五輪開催を疑問視する世論が強い現実は早々に変わるまい。「森氏の院政」と呼ばれないよう、生まれ変わった気持ちで難局に臨むことを求めたい。

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