首相長男の接待問題 公平損なう忖度またか
放送行政を所管する総務省の幹部が、放送事業会社に勤める菅義偉首相の長男らから高額接待を受けていた問題で、きのう政府は同省の局長ら2人を事実上更迭すると決めた。
週刊誌が公開した、会食時の録音とされるやりとりの音声について、この局長と首相長男の双方が自らの声と認めている。
利害関係者から接待・金品の受領を禁じた国家公務員倫理規程に抵触するのは間違いない。
行政の公平性を揺るがす重大問題である。しかもその背景に官僚の「忖度(そんたく)」が働いたことも疑われる。
というのも菅首相は、総務副大臣と総務相を歴任しており、今も同省に影響力が強いとされる。総務相時代には長男を大臣秘書官にしてもいた。
そのような事情をくんだ官僚が首相長男からの誘いを断れなかったばかりか、首相側に配慮して国会で「虚偽答弁」をした疑いがある。
安倍政権時にも森友・加計学園問題でみられた忖度政治ではないか。
行政への信頼を損なう疑惑である。接待された局長や審議官ら幹部4人の更迭、処分で幕引きとはならない。首相長男らにも国会で事情を聴くなどして、徹底的に解明せねばならない。
当然、首相も国会で説明した上で、自らも責任を取らねばなるまい。
首相の長男は、番組制作や衛星放送などの会社「東北新社」に勤務している。その子会社は総務省から衛星基幹放送事業者の認定を受けており、首相長男が取締役でもある。週刊誌が公開した、昨年12月の会食時とされる音声では「BS」などの言葉を連呼していた。衛星放送事業が話題だったのだろう。
一方、接待で会食費やタクシー代の提供を受けていた局長はこれまで「要望を受けた記憶はない」などと答弁。おとといも国会で衛星放送の話題は「記憶にない」と、かわしていた。
ところがきのう一転、放送に絡む話題を認めた。首相長男についても「利害関係者だ」とした。接待を受けて、許認可権を持つ放送行政に絡む意見を交わしたことが明らかになった。
「虚偽答弁だ」という批判は避けられない。背景には菅首相への波及を回避する意図もあったのか。行政をゆがめた疑惑として追及せねばならない。
献金についても野党は問題視している。菅首相は東北新社の創業者親子から、2018年までに計500万円の個人献金を受けていた。数回にわたって会食したことも認めている。
首相長男らによる接待問題について、政府は「調査中」を理由に具体的な説明を避け、曖昧な答弁を繰り返してきた。また菅首相も「私と長男とは別人格だ」「長男にもプライバシーがある」などと述べて、問題から距離を置いていた。
ところが「音声」が決定打となり、疑惑は一気に深まった。
モリカケ疑惑であれほど問題になったのに脈々と続く忖度政治に驚き、あきれるばかりだ。
首相長男の国会招致を、野党が求めてきたが、これまで与党は応じていない。だが、真相の解明には不可欠である。
別人格だという長男を、菅首相もかばい立てはするまい。政治不信をこれ以上深めぬよう、疑惑解明を主導すべきだ。
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