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銀行の認知症対応 実情即した配慮必要だ

2021/2/23 6:00

 全国銀行協会(全銀協)が、認知機能の低下した高齢者の預金について、家族らが代わりにお金を引き出すことを求めた際の対応指針をまとめた。

 預金を払い戻すには本人の意思確認が必要で、これまでは家族といえども引き出しを認めていなかった。その商慣行を見直し、一定のルールを設けた上で家族らによる代理を認める。

 限定的な対応になるが、しゃくし定規な「門前払い」の解消につながるのなら、大きな前進と言えるだろう。親を介護する家族らの実情に配慮し、融通が利く仕組みが必要だ。

 今回の指針に基づき、各行は柔軟に対応していくことになるが、速やかに浸透するよう業界を挙げて周知を徹底すべきだ。

 高齢化社会の進展に伴い、2025年には高齢者の5人に1人となる700万人前後が認知症になると見込まれている。

 問題は、預金者の認知能力が著しく落ちたと判断すれば、銀行は原則、その口座の取引に応じなくなる点だ。本人がむちゃな金の使い方をしたり本人以外の人が引き出して勝手に使ったりする恐れがあるためだ。銀行が訴えられるリスクもある。

 認知症患者の家族から預金の引き出しを求められた場合、銀行は通常、裁判所が関与して財産を管理する「成年後見制度」の活用を促す。選任された後見人は本人に代わって預金の引き出しや契約行為が可能になる。

 ただ後見人には弁護士や司法書士らが選ばれることが多い。第三者に財産を預けたくない、報酬の負担が重いといった家族らの抵抗感が強く、制度の利用が進んでいないのが実情だ。

 このため制度を使った取引を求める銀行と、使わずに預金の引き出しを行おうとする家族との間でのトラブルが目立つ。認知症が進むと、本人が申し出ても断られる場合がある。看過できない事態といえよう。

 高齢化の進展を踏まえ、金融庁の審議会は昨年8月、銀行業界として認知症患者の資産の扱い方について指針をつくるよう求める報告書をまとめた。家族らによる預金引き出しの手続きを認めるなど「柔軟な対応が望ましい」と指摘していた。

 今回まとめた指針では、成年後見制度の利用を求めることが基本としつつも、使い道が医療費など「本人の利益に適合することが明らか」な場合に限って認める判断基準を示した。

 患者本人との面談や診断書などを通じて認知判断能力の喪失が確認できれば、家族が本人のための費用を銀行口座から引き出せるようにするとした。

 一方で、代理権のない家族らの引き出しは「極めて特例的な対応」であり、後見人が選ばれた後は応じないとも強調した。家族らの要望や利便性に配慮しながら、金融機関としての責任と悪用防止をも担保しようとする姿勢は評価できる。

 認知症かどうかや、家族らの取引を認めるかどうかの判断は難しい。預金者の認知能力の低下を見逃せば、財産管理に支障を来しかねない。今回の指針にはそうしたトラブルを防ぐために、銀行が自治体や地域の社会福祉団体に相談するなど「外部機関との連携強化」を促すことも盛り込まれている。

 これからの地域金融機関には、超高齢化社会を支える新たな役割も求められている。

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