行きつ戻りつの春
2021/2/23 6:00
〈梅の花 夢(いめ)に語らくみやびたる 花と我思(あれも)ふ酒に浮かべこそ〉。大伴旅人の夢の中で梅の花が語り出す。「みやびな花だと自分でも思う。酒に浮かべてくださいな」と。万葉集では、桜よりも梅を詠んだ歌の方が多いそうだ▲数日前の戻り寒波をじっと耐え、つぼみは一気にほころびたようだ。広島市中区の名勝縮景園で、紅白の梅の花が盛りを迎えている。県による外出自粛要請も先の日曜でひと区切り。日だまりをたどる散策が心地よい▲梅は大陸文化とともに中国から伝わり、それゆえ万葉歌人のうち、とりわけ貴族がめでたとされる。りんとした白梅、あでやかな紅梅が織りなすコントラストは、冬と春を行きつ戻りつする今の時分にも程よく似合う▲新型コロナの新規感染者は減ってきた。それでも首都圏の減少ペースが鈍っていると、専門家は警戒を続ける。行ったり来たりは季節だけで十分なのに、寒が緩むにつれて気も緩みそう▲ひと月もすれば、梅から桜へと主役はバトンタッチ。そのころには高齢者へのワクチン接種も始まるはずが、ここにきて政府は調達の遅れをほのめかしている。旅人にならう花杯も、今しばらくは我慢の春となるのだろうか。
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