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生活保護費判決 算定基準の見直し急げ

2021/2/24 6:40

 行政の了見をただした判決だと言えよう。

 国による生活保護費の基準額引き下げを巡り、大阪地裁が初めて「違法」との司法判断を示した。総務省公表の消費者物価指数を引き下げの根拠とせず、独自の物価指数を持ち出した点などを問題視。「裁量権の逸脱や乱用があり、生活保護法の規定に反し違法」と断じた。

 生活保護は、憲法25条で定める「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する制度である。基準額の改定は客観的な数値に基づき、厳密に行うべきである。制度の基本に立ち返り、算定し直さねばならない。

 国は2013年から基準額の引き下げを加速させた。今回争われたのは、食費や光熱費に当たる「生活扶助」分で13〜15年に最大10%引き下げられた。受給者への影響は大きく、広島、岡山など全国29地裁で引き下げ処分の取り消しなどを求める訴訟が起こされている。

 今回の判決は、国が物価下落を考慮する起点を08年としたことを批判した。原油や穀物の価格高騰で物価が上がった同年を起点とすれば、下落率が大きくなるのは明らかだからだ。

 独自の物価指数も、とがめた。物価下落率が高く、生活保護受給世帯の生活実態にも合わない品目を入れている。総務省の消費者物価指数を用いていれば下落率はマイナス2・35%だったのに、独自指数ではマイナス4・78%となっていた。

 「客観的な数値や専門的知見との整合性を欠く」「判断の過程や手続きに過誤や欠落がある」との指摘は、理の当然だ。政府が持ち出した算定基準は、専門家でもはっきり分からないほど「ブラックボックス」化していたとの声もある。

 生活保護費の引き下げは13年、安倍晋三前首相の時に決めた。12年の衆院選で自民党は、支給水準の減額を公約として掲げ、政権に復帰していた。背景には08年のリーマン・ショック以降、受給世帯が急増していたことなどがある。

 社会保障費が膨らむ中、保護費が標的とされたことも否めない。売れていたお笑い芸人の母親が生活保護を受給していたケースが明らかになり、感情論に拍車が掛かった。受給者への偏見や自己責任論が幅を利かせるようになってしまった。

 安倍前政権では繰り返し、基準額が引き下げられた。15年には「住宅扶助」分や「冬季加算」分が削られ、18年から3年かけて「生活扶助」分が減らされている。

 支援団体によると、節約を余儀なくされた受給世帯では、食事の回数を減らしたり人付き合いを控えたりで心身に悪影響が出たという。受給者への無理解や偏見が強まり、苦しいのに受給申請を控える人も増えた。生活保護の対象世帯のうち、実際に受給しているのは2割強に過ぎないとされている。

 生活保護は、国民の命と暮らしを守るセーフティーネット(安全網)である。新型コロナ禍による失業や収入減で、生活苦にあえぐ人は少なくない。今ほど「公助」が求められているときはあるまい。

 国は、判決を誠実に受け止める必要がある。客観的な統計を踏まえ、困窮者の実態や専門家の意見を反映させた、公正な制度作りを急いでほしい。

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