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「すばらしき世界」と生活保護

2021/2/25 6:45

 「そこで我慢してよ」と声を掛けたくなる。公開中の映画「すばらしき世界」。役所広司さんが演じる男は「塀の中」で長く過ごし、娑婆(しゃば)ではすぐ短気を起こす。通行人にからむ不良を思わず袋だたきにし、皆はらはら▲男が生活保護の相談に赴くシーンがある。北村有起哉(ゆきや)さんが演じるケースワーカーは「反社の人はねえ」と告げるが、何か手だてはないかとも考える。二人は安アパートの畳の上で向き合って、やがて心を通わせ合う▲現実の生活保護はコロナ禍の今、困窮する人々にとって重みを増す。政府も「扶養照会」は融通を利かせるという▲生活保護には身内が援助できないのか、調べる手続きがある。身内に知れるのが嫌という人もいよう。暴力から逃げている人もいるかもしれない。手続きが理由でちゅうちょする人を救って―と専門職の女性がNHKの日曜討論で声を大にしていた▲映画は実話を基にした小説を原作に、西川美和さんが撮った。最近の文庫に〈とるに足らぬことにでも希望を見つけながら互いの生命を保つ〉と読後感を載せる。男は縫い仕事をし、洗濯や自炊をして日々を送る。世間は捨てたものじゃない。映画の題名の意味がしみてくる。

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