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孔子廟用地提供は違憲 政教分離に現実的な判断

2021/2/26 6:40

 儒教の祖、孔子を祭る「孔子廟(びょう)」に那覇市が敷地を無償で提供しているのは、政教分離の原則を定めた憲法に反するとの判断を最高裁が示した。

 政教分離を巡る最高裁の違憲判決は3件目。儒教施設に関する判断は初めてとなる。

 判決は過去の訴訟の判断の枠組みを踏まえながら、この施設特有の性格や経緯をつぶさに検討し、土地使用料の全額免除は許されないとした。政教分離に緩やかな解釈を示しつつ、原則に基づくけじめを求めており、現実的な裁きと受け止めたい。

 争われたのは那覇市内の公園にある孔子廟だ。琉球王国時代に中国から渡来した人らの子孫でつくる一般社団法人「久米崇聖会(そうせいかい)」が2013年に建てた。

 体験学習施設として申請を受けた市が公共性を認めて土地使用料を全額免除した。これを問題視した住民が違法確認を求めて市を訴えた。

 国家神道が軍国主義を支えた戦前の反省を受け、憲法は国や自治体などが宗教と関わりを持つことを原則として認めていない。今回の裁判でも、最大の争点は施設の運営にどれほど宗教性があるかだった。

 先例となったのは、地域の神社への公有地の無償提供が争われた「空知太(そらちぶと)神社訴訟」だ。最高裁は10年の判決で「施設の性格や無償提供の経緯、一般人の評価などを考慮し、社会通念に照らして総合的に判断する」との基準を示した。

 今回もこの枠組みを基本的に踏襲し憲法適合性を判断した。

 判決は、外観などから社寺との類似性があると指摘。正会員が限定され、供物を並べて孔子の霊を迎える祭礼も宗教的意義を持っていると認定した。

 さらに問題視されたのが、公金の支出額の大きさだ。免除されている土地使用料は年間576万円に上る。「一般人から見て、市が特定の宗教を援助していると評価されてもやむを得ない」と結論づけた。

 いかなる宗教団体も国から特権を受けてはならないとする憲法の規定を厳格に適用した判断といえる。国や自治体は宗教の種類にかかわらず、公有地提供の在り方に問題がないかどうか再点検する必要がありそうだ。

 中国から伝わった儒教は、宗教というより学問や思想体系として位置づけられてきた側面が強い。江戸時代には、儒学(朱子学)が幕府の官学として奨励され、その精神は道徳規範となった。「論語」は教養として今も親しまれているだけに、今回の判決に違和感を覚えた人は少なくないのではないか。

 裁判でも原告と市側は儒教が宗教か否かについて激しく争っていた。にもかかわらず、最高裁は今回、儒教一般についての評価や孔子廟を管理する崇聖会が宗教団体かどうかの判断はしなかった。

 定説のない宗教論争に立ち入らず、問題の核心部分から逃げた印象は否めない。

 裁判官15人のうち、1人の裁判官が「合憲」との反対意見を付けた。政教分離の規定を過度に広げれば歴史研究や文化活動に対する公的支援を萎縮させる弊害をもたらしかねないと警鐘を鳴らした。

 孔子廟は全国に点在する。社会通念や一般人の評価に照らして妥当な判決かどうか。今後の影響を注視したい。

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