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「孤独・孤立」問題対策 自己責任論まず脱せよ

2021/3/5 6:38

 新型コロナウイルスの影響で仕事を失い貧困に陥ったり、死を選んだりする人の増加に歯止めがかからない。「自助」をいくら強調しても状況は改善しない。もはや菅義偉首相も放置できなくなったようだ。背景にある孤独や孤立の問題の解決に、政府として取り組むという。

 先月半ば、坂本哲志1億総活躍担当相に「孤独問題」担当の兼務を指示した。厚生労働省や文部科学省の職員ら約30人で孤独・孤立対策担当室を内閣官房に新設した。全省庁が加わる連絡調整会議を近く設置する。

 縦割りの対応では、公助の網から漏れる人も多かろう。省庁横断で対策を考え、実行しようとする姿勢は評価したい。

 ただ問題や原因は多岐にわたる。非正規労働者の解雇や、女性と若者の自殺だけではない。引きこもり、1人暮らしのお年寄りなど、対応すべきテーマは山積している。どれだけ実効性のある具体策を打ち出せるかが問われよう。

 政府は、この夏に策定する「骨太方針」に対策を盛り込むというが、遅すぎる。迅速な対応が求められる。

 菅首相は当初、担当大臣を置くつもりはなかった。1月の国会審議で、創設を国民民主党に迫られたが、「担当は厚生労働相」と答えていた。生活困窮者への支援が不十分と国会で指摘され「最終的には生活保護という仕組みもある」と述べ、批判を浴びた。それも方針転換の要因になったようだ。

 そもそも孤独担当大臣は英国が2018年に新設した。国内経済に年5兆円近い損失を生むとの試算なども、社会全体で取り組む機運を高めたのだろう。

 日本でも翌19年の参院選で国民民主党が主要公約に掲げた。菅政権はその主張を「丸のみ」して看板政策とする考えだ。今秋までに実施される衆院選をにらみ、主要野党間にくさびを打ち込みつつ、争点をなくす一石二鳥の思惑があるに違いない。

 ただ現状は、そんな思惑がかすむほど深刻だ。しわ寄せは非正規労働者や女性、子どもに集中している。総務省の調査では、非正規労働者は昨年、前年より75万人減った。うち50万人は女性であった。

 経済的困窮などを背景に自殺者が昨年、11年ぶりに増加に転じた。特に女性は14・5%も増えた。小中高校生も統計のある1980年以降最も多かった。警察に寄せられたドメスティックバイオレンス(DV)の相談は昨年、過去最多となった。被害者の8割近くが女性だった。

 こうした問題は、コロナ禍が顕在化させたと言えよう。

 同居人がいても孤独に悩む人はいる。実効性ある対策を打つには、孤立していないかどうかだけでなく、家族との関係も含めた実態調査が急がれる。

 官民の連携も必要だ。例えば自治体には、地域の問題として民間の支援団体の活動に積極的に関わる姿勢を求めたい。例えば子ども食堂の会場として、学校や公民館を貸すなど協力できることは、たくさんあろう。

 まず発想を抜本的に転換すべきである。貧困や孤独、自殺を自己責任として捉えず、格差など社会のゆがみの表れだと位置付ける必要がある。そんな視点に立って、政府は施策を練って実行してこそ、誰一人取り残さない社会に近づくはずだ。 

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