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震災10年、福島原発事故 廃炉遠く復興見通せず

2021/3/9 6:46

 東京電力福島第1原発事故は発生から10年を迎えながらも、廃炉への道のりがまったく見通せていない。今なお多くの住民が避難生活を強いられ、根強い風評被害に苦しめられ続けている。

 廃炉なくして福島県の復興はない。地元との対話に努め、理解を得ながら作業を着実に進めていくことが政府と東電に課せられた責務だ。

 東電が最長40年間で完了を目指していた廃炉の工程は、4分の1に当たる10年となる。

 先月末には事故で炉心溶融(メルトダウン)した1〜3号機のうち、初めて3号機の核燃料プールに残っていた使用済み燃料など566体の取り出しを終えた。ただこの10年間、こうした作業を含めて廃炉に向けた準備に終始したにすぎない。

 メルトダウンした原子炉3基には、溶け落ちた燃料(デブリ)が格納容器の底に手つかずのまま残っている。デブリは3基合わせて880トンあるとされる。だが、どこにどれぐらいの量がどんな状態で存在するかもはっきりとは分かっていない。

 放射性物質に汚染された水も止まらない。それらを浄化した後の処理水が処分方法を決められないまま千基を超すタンクにたまり続けている。廃炉作業は全く進んでいないに等しい。

 この1月には、深刻な問題が新たに発覚した。2、3号機の格納容器の上ぶたのような部分の内側に、大量の放射性セシウムが付着している可能性があるという。

 2京〜4京ベクレルと極めて危険な汚染とみられている。そばに1時間もいれば人間は確実に死ぬレベルとされる。デブリの回収はもとより、建屋を含めた解体作業がさらに難航するのは避けられまい。

 政府や東電は廃炉に向けた道のりの険しさを深刻に受け止め、実際の状況や今後の対応方針について、被災者や国民に丁寧に説明する必要がある。

 東電と政府は、廃炉を2041〜51年に完了する工程表を示しているが、すでに5回も改訂している。目標通りに作業を完了させるのは事実上困難だ。新たな工程表を作り、公表する時期を迎えているのではないか。

 タンクにたまる処理水の処分方法も難題だ。残念ながら浄化は完全ではなく、多核種除去設備(ALPS)を通しても放射性物質のトリチウムが残る。このままでは来年9月ごろには137万トンのタンク容量が満杯になる見通しである。

 政府はこのため処理水を国際基準内に薄めた上で海に放出する方針を固めている。トリチウムは自然界にも存在し、環境への影響はないとの立場だ。

 当然だが反対の声は根強い。全国漁業協同組合連合会も断固反対を決議。風評被害を招けば、地元の福島だけでなく日本漁業の将来にとっても深刻な影響を与えかねないとする訴えは無視できない。国際社会から批判を浴びることになる。

 菅義偉首相は今月訪れた福島県で、処理水問題について「いつまでも先送りはできない。政府が責任持って決めたい」と述べた。放出ありきの発言なら容認できない。

 この10年、福島原発を巡る状況は改善していない。今も苦しむ被災者の思いに寄り添うことを首相は肝に銘じるべきだ。

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