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『福島モノローグ』から

2021/3/11 6:43

 作家いとうせいこうさんの最新刊「福島モノローグ」は小説ではない。その名の通り、大震災と原発事故を体験した女性たち10人余りの「独白」集である▲放射線を浴びて放置された福島の牛たち。殺処分寸前の何頭かを助け出した女性が振り返る。「牛には記憶があります。カタとムッちゃんとウエは同じ牛舎に飼われていたから(震災後に)再会したときすごかったんです。モワンモワン言いあって『あんた生きてたの』って感じでダダダダッって駆け寄って」▲女性は福島での放し飼いにこだわる。雑草をはみ、ふんが豊かな土地を再生してくれるからだ。そんな10年間の回顧談に、作家はひたすら耳を傾けていく▲昭和17年に川内村で生まれた別の女性は、ソバ畑に積まれた除染廃棄物の行方を気に掛けた。「事故の原発のまわりさ持ってくんだ。燃えるものは燃して、残った廃棄物は他の市町村に持ってく約束になってるが、どこだって言うこと聞かねえべ。結局あのあたりさ、また置くんだ。廃棄しようがねえんだよ。それほどすごいのが電気だよ」▲作家があえて聞き役に徹し、飾らない話し言葉を読者が受け取る。心まで通じ合うかのような読後感である。

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