
自民党内、再び対立構図 身内に被買収、自浄課題【決別 金権政治】<第5部・あしき慣習>(4)
大規模買収事件で公選法違反罪に問われ、勾留されていた元法相の河井克行(58)=衆院広島3区=が保釈された3日、広島県議会議長の中本隆志(62)が報道陣を前に語気を強めた。「即刻議員辞職し、襟を正して最後の裁判を受けることを望む」
中本は、克行の妻で元参院議員の案里(47)が1月に同事件で有罪判決を受けた際にも「二度と政治の世界に戻ってほしくない」と指弾。その激しい言葉に参院選での「恨み」がにじむ。
2019年の参院選広島選挙区。自民党県連は分裂選挙となり、中本ら主流派が現職の溝手顕正(78)を推し、元議長の桧山俊宏(76)ら非主流派は新人の案里を支援。激戦の末、案里が当選し、溝手は落選した。
参院選後、河井夫妻が自民党の県議や広島市議など県内の政治家40人に現金を配っていたことが発覚。同党の金権体質が浮き彫りになった。ただ、県連の主流派内には「河井陣営特有の問題」(ベテラン県議)と突き放す向きが目立つ。元県議は「現金を渡されたのはもともと桧山グループにいた議員が多い」と話す。
▽うやむや幕引き
県議会でみると、現金を受け取った県議13人のうち、桧山が属する自民党議員会にかつて所属していた県議は9人に上る。ただ現在は、中本がいる最大会派・自民議連に移っている県議もおり、同議連も8人の「被買収議員」を抱える。中本にとって大規模買収事件は対岸の火事ではない。
こうした対立構図は、故藤田雄山前知事の後援会不正事件に揺れた、かつての県議会の光景とも重なる。
この事件が発覚した05年以降、桧山が事実上率いる自民党議員会が藤田を糾弾した一方、自民議連の前身で、中本が当時属した自民党刷新会は「知事与党」として藤田を擁護。議員会が提案した辞職勧告決議案は過半数の賛成で2度可決されたが、3分の2以上が出席した中で4分の3以上の賛成を要する不信任決議案は否決され、「知事与党」が藤田を守った形だった。
一方で、藤田陣営が過去の知事選で県議に配ったとされる「対策費」の解明は進まず、県議会の調査はうやむやで幕引きされた。当時、「知事与党」の会派にいた元県議は「県議会として本気で対策費の問題を追及する姿勢はなかったかもしれない」と振り返る。
対策費疑惑などを教訓に県議会は07年に政治倫理条例を制定。「公正を疑われる金品の授受」などを禁じ、疑惑が出た時に審査会を設ける仕組みを整えた。
▽請求は非自民系
条例制定から14年後。参院選で河井夫妻から現金を受領した13人を対象に、県議会が初の審査会を設置し、今月12日に初会合を開いた。ただ、審査を請求したのは非自民系の2会派。「被買収議員」を身内に抱える自民党内の動きは、主流派、非主流派ともに最後まで鈍かった。
「もっと早く自民党内から請求できれば、有権者への印象も違ったのだが…」。倫理条例の制定に関わった自民党の元県議は自戒を込め、言葉を継いだ。「今度こそ議会の自浄能力を発揮しないと、政治不信はぬぐえない」(敬称、呼称略)
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