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決別 金権政治

問われる検察の姿勢 河井夫妻事件 受領政治家40人にいまだ刑事処分なし【決別 金権政治】<第5部・あしき慣習>(特集)

2021/3/17 22:00

 2019年7月の参院選広島選挙区の大規模買収事件で公判中の河井克行被告(58)=衆院広島3区=と、有罪判決が確定した妻の案里元参院議員(47)から現金を受け取った政治家40人に対し、東京地検がいまだに刑事処分をしていない。公選法では被買収者は罪に問われ、現職の政治家が罰金刑以上の有罪となれば失職する。市民から告発が相次ぐ中、起訴権限を握る検察の姿勢が問われる。

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 ▽35人「買収意図」、4人は否定 6割強が克行被告の選挙区外

 東京地裁で続く克行被告の公判では、現金を受け取ったとされる政治家40人の証言や供述調書の朗読が2月に終了した。全員が現金の授受を認めた上で、35人が現金を渡された際に買収の意図を感じたとの認識を示し、自身が被買収者であることを認めている。

 克行被告は案里氏が出た参院選で、集票を依頼する趣旨で地方議員や後援会員ら100人に計2901万円を渡したとして起訴された。うち40人が当時県内の首長や議員で、検察側の証人として東京地裁の法廷で説明するなどしてきた。

 40人の内訳は三原市長▽安芸太田町長▽広島県議14人▽広島市議13人▽安芸高田市議3人▽廿日市市議2人▽呉市議、尾道市議、江田島市議、府中町議、安芸太田町議、北広島町議各1人(いずれも参院選当時)。地域別に見ると、克行被告の選挙区である衆院広島3区以外の地域が25人と6割強を占め、現金授受の総額は計1190万円に上る。

 40人のうち35人は、参院選前の19年3〜7月に克行被告か案里氏から10万〜200万円を受け取ったと説明した。案里氏への支援を頼まれた後に現金を渡された状況や領収書をやりとりしなかった点から「参院選で応援してほしい趣旨のお金と認識した」「違法な金だった」などと証言。克行被告らの買収の意図を感じたとしている。

 一方で、県議2人と広島市議2人は買収意図を否定した。19年3〜6月に10万〜30万円を受け取ったと認めた上で同年3、4月の県議選、市議選の陣中見舞いや当選祝い、寄付金だったと強調。別の広島市議1人は「陣中見舞い、当選祝いとして受け取ったが、案里氏のことも頭をよぎった」と語った。

 事件が表面化して以降、40人のうち8人が辞職した。残る32人の多くは刑事処分が出ていないことなどを理由に議員活動を続ける意向を示している。

 ▽市民団体の告発状受理 結果次第で強制起訴も

 公選法では買収目的の現金を受領した側も同法違反(被買収)罪に問われる。東京地検は河井夫妻を起訴した昨年7月、「起訴すべきものは起訴した」と説明。被買収者とされる40人の刑事処分はしなかった。

 広島市の市民団体「河井疑惑をただす会」は、40人の名前や受領額が法廷で読み上げられた昨年8月の河井夫妻の初公判以降、告発状を提出し、東京地検が受理した。同会の山根岩男事務局長は「政治家自らが法廷で買収の金を受け取ったと認めているのに、何の罪にも問われないのはおかしい」と憤る。

 被買収者の法定刑は、3年以下の懲役か禁錮または50万円以下の罰金。政治家の場合は起訴されて罰金刑以上が確定すれば、公民権停止となって失職する。

 東京地検は今後、起訴するか不起訴処分にするかを判断するとみられる。不起訴になった場合、国民から選ばれた審査員でつくる検察審査会(検審)に対し、告発者が審査を申し立てることができる。

 検審は、検察庁から取り寄せた事件の記録を基に非公開で検察の処分が妥当かどうかを検討。起訴相当▽不起訴不当▽不起訴相当―のいずれかを議決する。起訴相当か不起訴不当が議決されると、検察は再捜査し、あらためて刑事処分を決めなければならない。起訴相当の場合は、検察が再び不起訴としても、検審の再審査で「起訴すべきだ」と議決した場合、強制的に起訴される。

 山根事務局長は「不起訴になれば、検察審査会への申し立てを検討したい」と話す。同じく告発状を提出した広島市東区の藤岡圭二さん(77)は広島県警の刑事だった当時、被買収などの容疑で旧豊平町議15人を逮捕した事件(1983年)などを担当した。「検察は被買収も罰を取るよう指示してきた。今回だけ特別扱いは許されない。検察は処分するべきだ」と訴える。

 ▽市民参加で責任追及の道も 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)に聞く

 なぜ東京地検は、「被買収者」を処分していないのか。甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)に聞いた。

 ―河井夫妻から現金を受け取った地方議員ら40人の刑事処分が出ていません。起訴すべきではないですか。

 河井夫妻が渡してきた現金について地方議員が買収の趣旨を否認すれば、夫妻を立件できなくなる。地方議員が取り調べに正直に話をしたということで、訴追権の行使は見送っているのだろう。

 「巨悪」を逃さないため、現金を受領した「小さな悪」に目をつぶるのは検察としてはやむを得ない。検察官が起訴猶予処分にする広い裁量権を認めるのが、わが国の起訴便宜主義の妙味だ。

 ―40人のそれぞれの受領額や回数は異なり、悪質性などにも違いがあります。

 200万円を受領した議員の場合、起訴されれば実刑になりうる金額だ。複数回受け取った議員は常習性があり、罪に問われれば量刑は重くなる。

 ―市民団体などから告発が相次ぎ、地検も受理しています。今後の流れは。

 地検は当然、しかるべきタイミングで刑事処分を出し、告発者にも結果を通知しなければならない。これまでの流れをみていると、起訴猶予にするのではないか。

 検察が答えを出した後は、検察審査会(検審)がある。市民独自の判断機構に委ねるということで割り切っていいと思う。

 ―検審は独自で審査できる職権や強制起訴の権限もあります。

 地方議員は河井夫妻の公判で証言し、現金を受領したと認めている。検審が職権で取り扱うべき事例にふさわしい。市民参加の訴追機関としての責任を果たしてもらえればいい。

 ―検察が起訴しないのに、検審が起訴するのはよいのですか。

 政治家に対する市民目線での起訴基準と検察官の起訴基準は異なってよい。官僚機構の検察庁が動けない事件こそ、市民が参加する検審で起訴し、公開の裁判の場で政治家に弁明させ、真相をあきらかにし、政治責任を追及すべきだろう。

 ▽不起訴を覆す検審議決続々 香典・賭けマージャン…

 東京地検が捜査した最近の事件では、検察審査会(検審)が不起訴処分を覆す「起訴相当」の議決が続いた。「市民目線」の判断が影響を与えている。

 前経済産業相の菅原一秀衆院議員の秘書が有権者に香典などを渡した問題では地検は昨年6月、経産相を辞任した点などを踏まえて公選法違反容疑で菅原氏を不起訴(起訴猶予)としたが、検審が職権で独自に審査。今年2月24日付で「起訴相当」と議決し「検察官の処分では国会議員はクリーンであってほしいという国民の切なる願いにも十分配慮すべきだ」と求めた。

 知人の新聞記者らと賭けマージャンをしたとされる東京高検の黒川弘務元検事長を巡っても、地検は昨年7月に「一定の社会的制裁を受けた」などとして不起訴(同)としたが、検審は同年12月、「社会に与えた影響は大きい」などとして「起訴相当」と議決。地検が再捜査し賭博罪で略式起訴する方針を固めている。

この記事の写真

  • 案里被告(右から2人目)が出廷した東京地裁の法廷で、現金授受について証言する県議=後ろ姿(イラストと構成・勝山展年)
  • 「被買収者」の刑事処分を求め、広島地検の庁舎前でアピールする「河井疑惑をただす会」
  • 渡辺修教授

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  •  2019年夏の参院選で河井克行、案里夫妻が100人に計2901万円を配ったとされる買収事件では、選挙に絡んだお金のやり取りが浮き彫りとなりました。令和の時代も変わらない「金権選挙」。皆さんの地域でも耳にしたこと、目にしたことはありませんか。体験、情報、意見をぜひお寄せください。(中国新聞「決別 金権政治」取材班)

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