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東海第2原発差し止め 安全な避難できるのか

2021/3/20 6:50

 万一の事故の際、周辺住民の命や健康を守るために必要な課題を明確に示したと言えよう。

 日本原子力発電の東海第2原発(茨城県東海村)を巡る訴訟で、水戸地裁がおととい出した判決である。住民が運転差し止めを求めて主張した、原発そのものの耐震性や重大事故対策には疑義を挟まなかった。しかし事故時の住民避難計画に不備があるとして、運転してはならないと判断した。

 国内の原子力災害では史上最悪となった東京電力福島第1原発事故から10年。今になって、避難計画が新たな課題として注目されること自体、深刻な事故は起きないという「安全神話」に、私たちがいかに毒されていたのかを表している。

 判決によると、原発の30キロ圏内にある14市町村のうち、広域避難計画を策定しているのは5市町だけ。それも大渋滞発生などの懸念が残っているという。

 このため、前田英子裁判長は「実現可能な避難計画や防災体制が整えられているというには程遠い」と指摘。生命や体に深刻な被害を及ぼしかねず、「人格権が侵害される具体的危険がある」と差し止めを命じた。

 実効性のある避難計画を原発運転の大前提とすべきだろう。しかし今、国は計画立案や実施体制整備を自治体任せにしている。無責任ではないか。米国は避難計画を原発の規制要件として位置付けている。日本でも、国が主導して対応する必要がある。それをせずして、安全対策は十分だとは到底言えまい。

 複数の避難経路確保だけでは済まない。福島の事故では、大量の放射性物質が放出されたのに、住民が初期放射線をどれほど浴びたか、ほとんど測定されなかったため不明のままだ。

 そうした準備も含め、避難体制を整えた自治体がどれほどあるだろう。判決を機に、実現可能な避難計画の作成に国は積極的に関与しなければならない。

 東海第2原発は30キロ圏の人口が約94万人と国内最多だが、避難の困難さは首都圏だけの話だと片付けられない。災害弱者をどう守るかという課題もある。

 中国電力島根原発(松江市)の30キロ圏内には、原子力災害時に自力避難の難しい高齢者や障害者ら要支援者が3万人近く住んでいる。先月まとまった共同通信のアンケートでは、全国の原発で最も多かった。支援する人や移動手段をどう確保するのか、自治体任せでは進むまい。

 前田裁判長たちは、住民の命を守るための課題を明らかにした。司法の役割を果たしたと言える。しかし同じ日に広島高裁の出した判断は正反対だった。

 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを命じた仮処分決定の異議審で、運転を認めた。双方の主張を吟味した上ならまだしも、自然災害リスクについて裁判所に独自の科学的知見はないと「責任回避」した上で、具体的な危険の立証を住民側に求めた。

 政府のお墨付きがあれば、よほどのことがない限り司法は口を挟まない―。事故前に最高裁が示した「安全神話」に戻ったようだ。政府に任せた結果、事故は起きた。過ちを繰り返さないためにも、行政とは独立した立場でのチェックが必要である。事故の教訓から目を背け、司法として果たすべき役割を放棄する判断は許されない。

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