克行被告辞職表明 買収の全容、説明尽くせ
徹底抗戦の構えから一転、選挙買収を認め、ようやく議員辞職の意向も表明した。
一昨年の参院選を巡る大規模買収事件で公選法違反罪に問われている元法相の衆院議員河井克行被告がきのう始まった被告人質問で、起訴内容の大半を認めた。
広島選挙区から立候補した妻の案里氏を当選させるため、地元議員ら100人に計2900万円余りを配ったとされる。
克行被告は辞職について「逃げることなく認めるべきは認めることが、長年にわたり支持していただいた後援者に対する政治家としての責任の取り方だ」と述べたが、遅きに失したと言わざるを得ない。
ただ昨年8月の初公判以来続けてきた無罪主張を翻し、なぜこのタイミングで議員を辞めるのか疑問点も多い。
案里氏とともに記者会見を開き、地元有権者はもちろん、国民に対する説明責任を果たすべきだ。そしてきちんと謝罪することこそ政治家としての最低限の責任の取り方だろう。
一昨年の参院選では、自民党本部が地元県連の反対を押し切って、改選2議席の広島選挙区で現職ベテラン候補に加え、案里氏を擁立し、激戦となった。
克行被告は被告人質問で、「2議席を獲得する党の方針を実現するため、妻の当選を得たいという気持ちが全くなかったとはいえない」と述べた。
県連が現職候補を全面的に応援する一方で、案里氏への支援が全くなかったことが事件の背景にあるとし、「県連が嫌がらせをしたり、妨害をしたりもした」と恨み節を連ねた。
自民党本部から1億5千万円もの資金が河井夫妻側に提供されたことも見逃せない。この資金提供が買収事件を誘引した疑念が拭えないからだ。
1億5千万円のうち1億2千万円は、税金が原資の政党交付金で、使途の報告が義務付けられている。夫妻の政党支部はしかし、いずれも関係書類を検察当局に押収されていることを理由に、使途を記載せずに報告書を県選管に提出している。
ことし2月の公判では、その一部が運動員買収の原資に充てられたとする案里氏陣営の会計担当者の供述調書も明らかになっている。
菅義偉首相は「押収された関係書類が返還され次第、党の内規に照らして監査を行う」と繰り返し述べている。だが、それでは遅い。一刻も早く河井夫妻らから事情を聞き、使途を明らかにしなければ、国民は納得すまい。
大規模買収事件は、吉川貴盛元農相が議員辞職した鶏卵生産大手アキタフーズの贈収賄事件にも飛び火した。菅政権発足以降、自民党で「政治とカネ」の問題に絡む議員辞職は、克行被告で3人目となる。
政治不信の深まりは深刻だ。自民党が案里氏側に巨額資金を提供し、参院選で全面支援をした経緯や理由を公にするのが党としての責務といえよう。
お金を受け取った側の責任も重い。広島県議会は政治倫理審査会を設け、被買収者とされる県議13人について「公正を疑われるような金品の授受」があったかどうか調査を始めている。まず県議会が自浄能力を示さなければ、「金権政治」との決別への一歩は踏み出せまい。
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