聖火リレーとパンドラの箱
2021/3/26 6:40
全知全能の神ゼウスが主役のギリシャ神話で、脇役ながらプロメテウスの存在感は抜群だ。何しろ天上界の火をこっそり人間に分け与えたのだから。彼がいなかったら、今日のさまざまな文明は生まれず、近代五輪も聖火リレーも始まらなかった▲怒ったゼウスはパンドラを地上に送り込む。彼女がつい、禁を破って箱を開けると、ありとあらゆる厄災が飛び散っていった。災害、飢え、貧困、戦争、感染症…。10年前、大地は揺れに揺れ、原子の火は制御を失う▲その福島原発について前首相が「状況はコントロールされている」と大見えを切って東京五輪を誘致すれば、後継首相も「五輪は人類が新型コロナに打ち勝った証しだ」と。まるで開催にこぎつければ、災いは再び封じ込められると言わんばかり▲せっかくなら五輪を盛り上げたい。でもウイルスとの闘いに終わりが見えないのが現実である。ワクチンにしても、五輪までの4カ月でいったい国民の何割に接種できるだろう。トップの言葉は勇まし過ぎやしないか▲パンドラがふたをすぐ閉めたため、箱の中には「エルピス」が残ったとされる。それは「希望」とも「つらい未来の予知」とも解釈されるそうだ。
あなたにおすすめの記事
天風録の最新記事
- 「ない仕事」の作り方 (2021/4/22)
- ある老気象学者の憤り (2021/4/21)
- デジタル万能とは限らない (2021/4/20)
- 逆風にあえぐ雑誌 (2021/4/19)
- カラスみたいな法服も (2021/4/18)