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第7回【ヤマセミはどこへ】魚捕りの名手 受難の時代

2021/3/27 21:36


 日本鳥学会会員の上野吉雄さん(68)=廿日市市=は愛用の小さな双眼鏡を手にほぼ毎日、太田川流域を歩く。ただ、この2、3年、めっきり見掛けなくなった鳥がいるという。かつて中・上流域で常連だった魚捕りの名手、ヤマセミ。話の真相を探ろうと、年明けからその姿を追った。

 白黒の鹿(か)の子柄で、ハトより少し大きい。頭上に逆立つ冠羽、大きなくちばし、「ケラケラケラ」と甲高い鳴き声。最初に出合ったのは1月中旬、渓流に張り出した枝で獲物をうかがい、存在感を放っていた。20分ほどして下を向くと、一気に川へ飛び込んだ。

 かわいらしくて、りりしい姿。「1度見たら忘れない」。多くの人の心をつかむ訳が分かる気がした。

 日本野鳥の会広島県支部が1991年、ヤマセミを調べた資料が残る。太田川水系では計12の生息地を記す。このデータを手掛かりに、住民や野鳥愛好家に話を聞き、会員制交流サイト(SNS)の情報も参考にしながら車を走らせた。結果として姿を確認できたのは4地点だけだった。

 身近なヤマセミはなぜ減ったのか―。専門家は、相次ぐ土砂災害や護岸工事で巣穴に適した土の崖が減り、餌場の川も雑木林や竹やぶが刈られるなどしたためとみる。上野さんは「ひなの目撃情報が特に少ない。繁殖がうまくいっていないのかも」と心配する。

 都市部でも同様だ。野鳥の会元支部長で広島女学院大名誉教授の中林光生さん(81)=広島市安佐北区=は、自宅近くの高瀬堰(ぜき)下流で2005年から14年間、ヤマセミを観察した。昨年、その記録を本にまとめた。「太田川の河川敷は自然豊かだが、災害対策などで環境が変わってきた」と話す。野鳥の観察マナーにも左右されるという。

 30年ほど前は県内各地の川で見られたヤマセミ。県は、11年度のレッドデータブックで「準絶滅危惧種」とした。さらに21年度の改訂では「絶滅危惧U類」へ格上げされる見通しだ。

 実情を知ってもらおうと今月、NPO法人三段峡―太田川流域研究会が繁殖の本格化を前に初めての観察会を開き、親子連れらが参加した。「鳥たちもすみやすい川や森にしようね」。案内役を買って出た上野さんはそう語り掛けた。(写真と文・安部慶彦)

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