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消費税込みの価格表示 店頭での混乱、避けたい

2021/3/31 6:39

 小売店などの商品価格を消費税込みで表示する「総額表示」があすから義務付けられる。

 特売などでおなじみの「98円+税」「980円+税」といった値札は姿を消し、それぞれ「107円」「1078円」といった価格表示になる。

 消費税込み価格と税抜き価格の表示が混在していた状況が一本化される。全部でいくら払うかが分かりやすくなることは、消費者の視点からは望ましい。

 制度上は2004年4月に総額表示が義務付けられた。しかし14年4月の消費税率8%への引き上げに先立ち、13年10月からは本体価格を認める特例が適用されてきた。税率が段階的に変わることに苦慮する事業者への配慮を理由としてきた。

 8年近く続いた特例措置が終了し、売り場は値札の付け替え作業などに追われている。消費者が店頭で混乱することのないよう万全を期してほしい。

 総額表示について、政府は支払金額が明確になり、価格の比較も容易にできるようになると強調している。消費税と同じ付加価値税が定着している欧州では、各国の税率はばらばらで軽減税率などが複雑に入り組んでいる。それでも消費者が混乱しないのは総額表示のおかげと言いたいのだろう。

 そのメリットは「分かりやすい」の一点に尽きる。ただコロナ禍で低迷する消費をさらに下押しする懸念もある。特例を現時点で終了させる合理的な理由が見当たらない。タイミングが悪すぎるのではないか。

 04年4月に総額表示が導入された際は、スーパーの売上高が前年比で4・4%も落ち込んだ。小売業界は「値上がりを印象付け、顧客の購入意欲が減退した」とみている。コロナ禍で低迷する個人消費の動向にも配慮すべきだったのではないか。

 本体価格表示も併せて認めた点も気に掛かる。

 税込み表示を目立たなくすれば、高齢者などの顧客が安いと勘違いしかねない。客離れを防ぐため、値下げに踏み切る店も出てこよう。立場の弱い取引先へ不当な値下げ圧力を強めることがあってはならない。政府はこうした点には、しっかりと目を光らせる必要がある。

 書籍などは息の長い商品が多く、カバーの掛け替えなどをすれば膨大な費用と手間がかかってしまう懸念があった。売り上げカードや帯を差し替え、税込み価格を明示することで対応することにはなったが、総額表示への抵抗感は業界には根強い。柔軟な対応策も探るべきだ。

 最も引っかかるのは、政府が「消費税を含めた価格の表示」とし、税額の明示までを求めていない点だ。

 総額表示の義務化に反対している全国商工団体連合会は「物価に消費税を紛れ込ませて痛税感と納税者意識を薄れさせている」と批判している。

 ガソリン税は道路整備のために使われる目的税だったが、いつの間にか普通税となった。支払う総額ばかりを気に掛ければ、1リットル当たり62円を超す税金が含まれている意識が薄れてしまいかねない。

 総額表示が税への負担感をうやむやにする懸念も指摘されている。消費税は、年間で20兆円を超す負担を国民に強いる。痛税感を「分かりやすさ」と引き換えにはできない。

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