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立てなかったキリンの「はぐみ」1歳 走れるよ

2021/4/2

生まれた日のはぐみ(安佐動物公園提供)

生まれた日のはぐみ(安佐動物公園提供)

 広島市安佐動物公園(安佐北区)で誕生したアミメキリンの雌「はぐみ」は、2021年4月9日で1歳。親キリンに比べ、まだ一回り小さな体でトコトコ歩く姿が愛らしく、元気に駆ける姿も人気の的だ。生後間もない頃は、足の異常のため立つことも歩くこともままならなかった。成長を支えたのは、飼育係や獣医師など動物公園のスタッフ、人の義足などを製作する専門家たちだった。

生まれた日のはぐみ。後ろ足が内側に曲がっている (安佐動物公園提供)

生まれた日のはぐみ。後ろ足が内側に曲がっている (安佐動物公園提供)

 2020年4月9日朝。飼育係の堂面志帆さんが獣舎の中で、赤ちゃんキリンがちょこんと座っているのを見つけた。母親のメグミが夜のうちに出産したようだ。

飼育係の堂面さん

飼育係の堂面さん

 異常に気付いた。生後すぐに立つはずなのに、座ったまま。両後ろ足が変な方向に曲がっている。獣医師によると、原因は足の腱(けん)の異常。まっすぐになるようギプスで固定したが、やはり立てない。このままでは生きていけないかも―。不安がよぎった。

ギプス姿で歩こうとするはぐみ(安佐動物公園提供)

ギプス姿で歩こうとするはぐみ(安佐動物公園提供)

 3日後。何とか立ち上がり、たどたどしくも歩くようになった。ただ、ギプスのままでは成長が妨げられる。爪先が曲がらないよう支える装具が必要だった。

義肢装具士の山田さん

義肢装具士の山田さん

 動物公園が相談したのは、広島国際大総合リハビリテーション学部(東広島市)の講師、山田哲生さん。義肢装具士で、義足や義手、体を支える装具などの専門家だ。もちろんキリン用は初めて。親キリンの歩く姿を動画に収め、関節の動きを研究し、プランを練った。

はぐみの足の型を取る様子(安佐動物公園)

はぐみの足の型を取る様子(安佐動物公園提供)

 5月。装具製作に必要な足型を取った。はぐみは麻酔で眠らせたが、リスクもあった。首を寝かせたままでは、胃の中の物が逆流して別の病気を招く恐れがある。よろめき、頭をぶつける心配もあった。目覚めるまで、飼育係たちは長い首を抱え続けた。

装具を着け、立ち上がるはぐみ(安佐動物公園提供)

装具を着け、立ち上がるはぐみ(安佐動物公園提供)

 6月。完成した装具を初めて着けた。プラスチック製で、足の前側を覆うタイプ。しかし、はぐみが痛がり、すぐに外すことになった。「どこが痛いか言ってくれればいんだけど…」。山田さんは獣医師たちと意見交換し、改良を進めた。

 7月。2作目が完成した。形状をがらりと変えた。1作目は足の後ろ側の支えが小さく、負荷がかかりすぎたと分析。足の後ろ側を覆うようにした。「治すための装具で症状を悪化させたり、けがをさせたりするわけにはいかない。試行錯誤の連続だった」と山田さんは振り返る。

これまで試した装具

これまで試した装具

 はぐみは2作目を着けて歩き始めたが、1週間ほどで壊れてしまった。体重は推定120キロ。強度不足だった。山田さんはすぐに3作目を用意。素材を見直し、より丈夫にした。そして―。

装具を着け、走るはぐみ

装具を着け、走るはぐみ

 7月下旬、はぐみは装具を付け、元気に駆け回る姿を見せた。

 その後、さらに強度を高めた4作目を着けて経過は良好。10月に左足、11月に右足の装具を外した。12月下旬には、広い展示場に出る練習を始めた。


 生まれて1年がたった。キリン舎で一番小さいのは、2020年11月生まれのアカリ。その次が、はぐみだ。もう装具は着けていない。

 元気な様子は、足に不自由があったとは分からないほどだ。「はぐみのできることを増やせた。本当にうれしい」。山田さんは目を細め、成長を喜んでいる。

 飼育係や獣医師、義肢装具士、来園者たちに見守られ、育まれた。堂面さんは「一番頑張ったのははぐみです」と言う。「はぐみ自身の生きる力で、ここまで成長できた。諦めずに立ち上がり、歩こうとした、はぐみの生きる力や勇気を、皆さんにも感じ取ってほしい」(奥田美奈子)

2020年秋に生まれたアカリ(右)を追うはぐみ

2020年秋に生まれたアカリ(右)を追うはぐみ

【動画】これがキリンの鳴き声 ウシみたい

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