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土地利用規制法案 私権制限の不安消えぬ

2021/4/3 6:00

 自衛隊や米軍の基地を守るためという。安全保障の面で重要な施設の周辺や、国境近くの離島などの土地利用の規制を強化する法案が国会に提出された。

 政府は、掘削による敷地内への侵入や、施設の動きのスパイ行為、活動妨害などを警戒しているようだ。防止するには、重要施設周辺の土地の利用状況を調べるなど、何らかの対応が必要なことは理解できる。

 しかし法案を読むと疑問が募る。重要施設が何を指すのか、政府の行う調査はどんな内容か。いずれも、政府が今後決めるという。これでは、国会のチェックは働かず、行き過ぎた私権制限や、プライバシー侵害の恐れが拭えない。政府が歯止めを設けるつもりなら、早急に具体策を示さなければなるまい。

 法案の基は、昨年末にまとまった政府の有識者会議の提言だ。今回の法案と併せ読むと、政府の考え方が、おぼろげながら浮かぶ。

 まず、司令部機能を持つ自衛隊基地の周辺や無人の国境離島などを「特別注視区域」に指定する。一定面積以上の土地売買には、名前や住所、利用目的の届け出を義務付け、虚偽の届け出には罰則を科すという。

 基地や、原発をはじめ重要インフラは約1キロ圏内を「注視区域」とする。土地、建物の所有者の名前や国籍、利用実態などを国が調査できるようにする。岩国錦帯橋空港をはじめ軍民共用空港も提言は重要インフラとして挙げている。ただ政府が対象とするかどうかは不透明だ。

 背景として、北海道苫小牧市や長崎県対馬市などでの外国人や外国資本による大規模な土地買収がある。安保環境が脅かされかねないといった不安が増しているという。

 ただ取引相手が外国の人や企業だからといって、売買にブレーキをかけることは世界貿易機関(WTO)が認めていない。グローバル経済の流れにも逆行しよう。排外や差別につながりかねず、法案も外国人に関する懸念への言及はない。加えて自衛隊の運用に支障を及ぼしたなどの例は示されていない。

 こうしたことから、与党を組む公明党には慎重論が強かった。無理もあるまい。自民党との協議で「特別注視区域」の対象を縮小し、市街地を除外するなどで矛は収めた。しかし恣意(しい)的運用の懸念は残ったままだ。

 外国人が念頭だとしつつ、一般市民まで調べることはないのか。調査項目は政府の思い通りに増やせるから、私権が制限される不安はある。

 杞憂(きゆう)ではない。陸自の情報保全隊は2003〜04年、イラクへの自衛隊派遣に反対する団体や個人の情報を集め、内部文書にまとめていた。市民団体や宗教団体まで幅広く、高校生のグループも含まれていた。中国地方でも16団体、27件の集会やデモなどが「監視」対象だった。

 監視された人が提訴し、「違法」判決が確定している。今回の法案が通れば、市民のプライバシーに踏み込む調査に法的根拠を与えかねない。スパイ行為や妨害の防止が狙いなら、別の施策を検討すべきだろう。

 国会が、はなから恣意的運用を政府に認める法案を通せば、責任放棄に他ならない。国権の最高機関としてチェック機能を発揮できるかが問われている。特に与党議員の責任は重い。

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