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70歳まで就業 処遇の改善も忘れるな

2021/4/5 6:47

 人生100年時代に合わせ、雇用環境も変えていかなければならないのだろう。希望者には70歳まで働く機会を確保することが企業の努力義務となった。1日に施行された改正高年齢者雇用安定法によってである。

 これまでは希望者全員を65歳まで雇うよう義務付けられていた。少子高齢化による人手不足の解消や、技術の伝承などのメリットがあり、その仕組みは、ほぼ整ってきたと言えよう。

 今回さらに70歳まで引き上げた。罰則のない努力義務だが、いずれは義務付けることも政府は検討しているという。

 まだ働きたい人が安心して就業できる環境を各企業は整えなければならない。もちろん一層の負担を求める以上、政府の支援も欠かせない。

 とりわけ今、新型コロナウイルスの感染拡大で雇用状況が悪化している。解雇や雇い止めは累計で10万人近くに達した。飲食や観光など、厳しい状況が続きそうな業種もある。政府にしかできない対策を講じて、これ以上の悪化を防ぐべきだろう。

 高齢者の就業は社会保障にも深く関係している。少子化による現役世代の先細りに加え、超高齢化で年金受給者は増えていく。1人の現役世代が1人のお年寄りを支えるような「肩車」負担の時代は間近である。

 年金財政の逼迫(ひっぱく)を緩和するため、元気な高齢者にはいつまでも働いて、年金財政を支える側に立ってもらいたい―。そんな思惑が政府にはある。来年4月には、年金の受け取り開始年齢の上限を今の70歳から75歳まで引き上げる。70歳までの就業と合わせて、現役世代の負担軽減を図るのに懸命のようだ。

 ただ企業の多くはまだ、70歳就業について、対応を決めていない。厚生労働省の昨年6月1日時点の調査では、66歳以上が働ける制度が「ある」企業は、全体の3分の1程度しかない。

 取り組みを促すため、政府は新たな方策を打ち出している。従来の定年廃止・延長、継続雇用制度の導入に加え、業務委託契約と、社会貢献事業への支援を通じた高齢者の働く場の間接的提供―の二つである。

 企業の選択肢が広がるのは確かだが、不安もある。例えば業務委託の場合、最低賃金や休業時の補償がなく、労災も対象外となるなど、一部で労働者の権利が守られないからだ。

 高齢者自身の問題もある。個人差はあるが、加齢に伴う身体能力の衰えは避けられない。労災をどう防ぐか。現場の目配りが今まで以上に求められる。

 そもそも、専門技能を生かしたり趣味などのすきま時間を使ったりして働き続けることを歓迎する人ばかりとは限らない。食いつなぐために働かざるを得ない人も少なくないだろう。

 そうした人が安上がりの労働者として便利に使われないよう、企業だけではなく、政府も目を光らせなくてはならない。例えば処遇改善も忘れてはなるまい。働く高齢者の増加で懸念される、新卒採用や若い人の昇進などへの悪影響を防ぐことにもつながるはずだ。

 人生100年時代にふさわしい社会はどうあるべきか。視野を広げて、高齢者の雇用の在り方や、安心して働き続けられる場づくりを考えねばならない。政府は、企業任せにせず、積極的に関与する必要がある。

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