WHO武漢調査 感染起源の解明欠かせぬ
実態解明には程遠い内容だ。世界保健機関(WHO)の国際調査団が、新型コロナウイルスの感染起源を解明する目的で、中国湖北省武漢で行った調査の報告書である。
野生動物から、中間宿主である別の動物を介して人間に広がった可能性が高いと結論付けている。しかし中間宿主の特定には至らず、感染経路はたどれていない。一方で、米国の前政権が主張していた中国の研究所からウイルスが漏えいしたとの説は「極めて疑わしい」と否定している。
どこからどう感染が広がったのかの解明は、現在のコロナ対応はもちろん、将来の感染症対策のために欠かせない。さらなる調査を急ぐべきだ。
調査は1〜2月、日本を含む各国の専門家や国際機関関係者から成る調査団が実施した。昨年5月の総会決議に基づき、感染の起源についていくつかの仮説を検証するのが目的だった。
しかし初めて感染が確認されてからすでに1年以上が過ぎている。ここまで遅れた最大の要因は中国がWHOの調査団受け入れや情報開示に消極的な姿勢をとり続けてきたことにある。
調査には、対象国の同意が前提となる。WHOには強い権限がないため、調査を行うには対象国の意向に配慮することになってしまうようだ。
今回の調査では、初期に集団感染が起きた海鮮市場などはすでに閉鎖され、必要なデータは中国側に依存せざるを得なかったという。これでは中国での初動態勢の検証も含め、十分な調査は望むべくもない。
WHOのテドロス事務局長は、「調査団は生データの入手で困難に直面した」と、中国側の協力に頼らざるを得なかった調査の難しさを認めている。その上で、追加調査団を派遣する用意があると明らかにした。当然のことだろう。
報告書がWHOと中国との共同報告の形で公表されたことも、国際社会から調査の客観性を疑われる要因になっている。
「科学的で専門的な精神を示した」と中国は自画自賛したが、日米英韓など14カ国は、調査の独立性や透明性を問題視する共同声明を出した。調査の実施が大幅に遅れた上、「完全なオリジナルデータや検体へのアクセスが欠如していた」と中国の対応を批判している。
調査に中国の協力は欠かせなかったとしても、せめて報告書はWHOが独自にまとめられなかったのだろうか。
感染拡大の当初、テドロス氏は中国の対応を評価するような発言をして、批判を浴びた。中国寄りの姿勢が、パンデミック(世界的大流行)表明の遅れにつながった可能性も指摘されている。
WHOへの寄付などを弾む中国に遠慮するあまり中立性が損なわれているとすれば、憂慮すべき事態だ。WHOは権限や財政基盤を強化し、中立な立場で活動できる組織に体制を整える必要があろう。それには国際社会の連携が不可欠だ。
テドロス氏や欧州連合(EU)のミシェル大統領ら25カ国・機関の指導者は先ごろ、感染症対策で国際協調体制を確立するための新条約制定を提唱した。コロナ後も見据えた動きであり人類全体に関わる問題である。日本も積極的に関与すべきだ。
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