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原発処理水、海洋放出へ ごり押しは許されない

2021/4/11 6:39

 結局は地元にツケを押し付けるのか。東京電力福島第1原発の汚染水を浄化した処理水を海洋放出する方針を政府が固めた。13日にも関係閣僚会議を開いて正式決定するという。

 海洋放出については、地元はもちろん、全国漁業協同組合連合会(全漁連)も「絶対反対」を掲げている。菅義偉首相は先日、全漁連の岸宏会長と面会して理解を求めた。トップ会談で手続きを済ませたつもりだとしたら、お粗末すぎよう。

 岸会長の返事は「反対の立場は、いささかも変わらない」だった。説得はおろか、十分な議論もないまま、ごり押しは許されない。あまりにも無責任だ。

 国内の原子力災害では史上最悪となった事故から10年、福島では漁業復興への努力が続いている。対象魚種や海域を限定した「試験操業」を今年3月に終え、本格操業に向けた取り組みを始めたところだった。それなのに、処理水を海洋放出するのでは今までの苦労が水の泡になりかねない。「再び風評被害にさらされる」と地元の漁業者らが反発するのも当然だろう。

 福島第1原発では、事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やすための水や、原子炉建屋に流れ込む地下水などの汚染水が毎日100トン以上生じている。それを多核種除去設備「ALPS(アルプス)」などで浄化した処理水は、今までに125万トンたまっているという。

 処理水には、アルプスでも取り除けない放射性物質のトリチウムが含まれている。それでも、薄めて海に流せば、科学的には安全だと政府は主張する。国内外の原発でもトリチウム水を海に放出しており、国際的にも認められている―というわけだ。

 ただ、地元の理解が得られないのに決定を急ぐ背景には、処理水を入れるタンクが来年秋に満杯になるという東電の事情があるようだ。しかし敷地内でタンク置き場を広げたり近隣の土地を借りたりもできたはずだ。東電は汗をかこうとしないだけではなく、ずさんなテロ対策や地震計の故障放置など失態は最近も後を絶たない。政府は東電に甘すぎるのではないか。

 汚染水からトリチウム水を分離する方法を開発したと近畿大が発表したのは3年前だ。それらを含め、政府が全ての手だてを真剣に検討した形跡は見られない。にもかかわらず海洋に放出するというのは「日程ありき」のごり押しでしかなかろう。福島の人たちをさらに犠牲にするのは到底容認できない。

 福島で事故が起き、安全神話を広めてきた原子力関係者らの「うそ」が露呈した。それが骨身に染みた人には、「薄めれば科学的には安全」と専門家に強調されても疑念は消えまい。

 そもそも、トリチウム以外の放射性物質もアルプスで完全に除去されるわけではない。どんな放射性物質がどのくらい残るのか。人体への影響はどのぐらいか。きちんとデータを出して説明することが先だろう。

 事故10年の節目に、国連の人権専門家が「汚染水は環境と人権に重大なリスクをもたらす」との声明を発表した。太平洋への放出は容認できる解決策にはなり得ないとも指摘している。

 政府は、海洋放出の方針は直ちに撤回し、地元はもちろん、環境にも負担を押し付けない方法を検討すべきである。

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