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タンク足りぬほど湧く「水」

2021/4/14 6:57

 〈大量熱水製造廃棄株式会社〉を誘致し、村をこの世の天国にしようという。福島の詩人若松丈太郎さんの寓話(ぐうわ)にも似た詩「海辺からのたより」にある。主導した村長を〈源八氏〉と呼んで▲捨てるほど湧く熱水で温泉付きホームを営み、じっちゃん、ばっちゃんを大切にする。代わりに一つだけ社会貢献をしてもらう。ブザーが鳴れば工場に出向き、首に計器を着け、ちりとりとモップで掃除することである。詩人自身「怖ーい話」と言うから、その寓意は察しが付く▲タンクが足りないほど湧く汚染水を「浄化」して海へ―。きのうの政府の決定は寓話ではなく現実である▲漁師たちが憤るのは無理もない。原発の破綻から10年。試験操業期間をやっと終えたのに、再び「風評被害」にさらされる。廃炉のためにはいつまでもおかにためてはおけぬ―。そう理解を示す人でさえ、海に流す理屈を説明せよと注文を付ける。信用が地に落ちている東京電力に、理解を得るすべはあるのか▲先日、いわき駅前の居酒屋でメヒカリの唐揚げを食した。「常磐もの」の定番で、白身が軟らかく美味。ささやかに酒肴(しゅこう)を楽しむ向きにまで「海洋放出」が影を落とすのなら、悲しい。

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