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出生前診断の新制度 意思決定、慎重に支えよ

2021/4/22 6:50

 妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」について、在り方を検討してきた厚生労働省の専門委員会が先ごろ、報告書案をまとめた。

 医師が妊婦に「検査の情報を積極的に知らせる必要はない」とした旧厚生省専門委の見解を約20年ぶりに改める。正確な情報を提供し、不適切な無認定施設を、妊婦が選ばないようにするのが目的だという。

 国や自治体が検査に関する正確な情報を妊婦に届ける体制を整え、検査を実施する施設の認定審査にも、国が関与する。

 新出生前診断は2013年、「臨床研究」としてスタートした。国はこれまで日本産科婦人科学会(日産婦)など関連学会に指針策定や運用を任せ、腰が引けていた感が否めなかった。

 胎児の異常を調べることは「命の選別」にもつながりかねない。関与するからには、当事者の意思決定を支えなくてはならない。

 日産婦の指針は、妊婦に検査内容について説明し、心理面の支援をする遺伝カウンセリングを必須としている。その指針に基づき、専門医がいてカウンセリング体制が整った大学病院など大規模な施設で実施してきた。原則35歳以上とするなど対象を絞り、調べるのはダウン症の21トリソミーなど3種類の染色体異常に限定している。

 しかし、昨今はこうした指針を無視して参入する美容外科などの無認定の民間クリニックが急増しているという。しかも検査の精度などの実態は不透明だ。インターネット上には疑わしいものも含め、出生前診断に関する情報が飛び交っている。

 十分な説明や支援にたどり着けず、検査を受けるべきかどうかなどに悩み、苦しんでいる妊婦も少なくない。

 現状を踏まえれば、妊婦に知らせないことよりも、正確な情報を提供し、やみくもな拡大に歯止めをかける必要があると国が判断したのだろう。

 国が主導し、カウンセリングなどで妊婦を支える仕組みを目指すのは理解できる。ただ、情報提供や実施施設の認定に国が関わることで、国によって検査が推奨されているのだと受け止められることがあってはならない。慎重な配慮が必要だ。

 日本ダウン症協会も懸念を深めている。情報提供の仕方や内容によって「ダウン症が検査をして産むか産まないか選択する必要がある障害だとの誤った理解を広めかねない」として、丁寧な対応を求めている。そうした懸念を重く受け止め、社会で広く共有する必要がある。

 国は新しい制度の運営委員会をこの夏に発足させる。厚労省のほか日産婦などの関連学会、患者団体などで構成し、実施施設の審査・認証や妊婦たちへの情報発信も担う。十分に議論を尽くしてほしい。

 生殖関連の検査技術は、日進月歩だろう。そうした現実にどう向き合っていくのか。医師の倫理や、医療の在り方も問われていよう。

 本来出生前診断の前提には、健康状態や障害の有無に関係なく、誰もが安心して産み育て、暮らしていける社会環境が欠かせない。

 妊婦たち当事者を支える仕組みをつくることはもちろん、私たち社会の在り方が問われていることを忘れてはならない。

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