コラム・連載・特集

授かった「宝子」

2021/5/2 6:43

 きょうから本紙の広場欄はゴールデンウイーク特集である。「わがまちの宝」。地方版でも同じ題の企画が1年前から走っている。おなじみの読者もいるだろう。身近な世界で見つけた、心地よい時間や場所の数々がつづられている▲かつて熊本の水俣市で、1人の少女が「宝子(たからご)」と呼ばれていたことがある。工場から垂れ流された有機水銀が母親の胎盤をすり抜け、体をむしばんだ。生まれながらの水俣病患者である▲少女の弟や妹は無事だった。「家族の宝子ですたい」。母親には、水銀の毒をすべて娘が吸い取ってきてくれたように思えたらしい。水俣病の公式確認からきのうで65年▲子宮は、内なる環境である。水銀は魚介類を通じて胎内に及んだ。人間を取り巻く海や大地の汚染が次世代の命を脅かしかねない―。胎児性患者は身をもって、そう警告する。水俣が公害の原点とされるゆえんだろう▲その水俣は、「地元学」発祥の地でもある。風土に根付いた暮らしに学びつつ再生の糸を紡ぎ、コミュニティーを織りなす試みである。企業城下町の遺産もあればこその産声だったろう。風物や人情に目を留めた投書の並ぶ広場欄が、地元学の宝箱に見えてくる。

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