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国民投票法改正案 課題積み残し許されぬ

2021/5/3 6:00

 与党が大型連休明けにも、国民投票法の改正案を衆院憲法審査会で採決する方針を固めた。

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 憲法改正の重要な手続きとして憲法96条に定められた国民投票を、公選法に合わせた形にするのが目的だ。駅や商業施設に共通投票所を設けることや、期日前投票の時間を弾力運用できる7項目が盛り込まれている。

 投票率を上げる効果は期待できよう。だが問題は2018年に改正案が出されて以降、国民投票の在り方について議論が尽くされてはいないことだ。

 国民投票法は07年の成立時にテレビなどのスポットCM規制などを検討課題とし、先送りした。成立を優先させて各党が妥協した結果という。改正案でもそれらに手をつけず、投票実施の手続きだけを先行させた。

 憲法は私たち国民の自由と権利を保障する根幹である。課題を積み残したまま国民投票の準備を進めることは許されない。

 テレビやラジオでの政党のスポットCMは、今の国民投票法では投票前の14日間を除いて規制がなく、費用制限や罰則すらない。15年の大阪都構想の住民投票は賛成、反対双方のCMが大量に流された。

 自分たちの主義主張を押し通そうと、カネを大量投入して多数派を握ろうとする動きが広がるとすれば公平ではない。

 一昨年の参院選広島選挙区を巡っても、カネで結果を左右しようとする動きがあった。河井克行、案里夫妻による大規模買収事件である。自民党本部は、河井陣営に渡した選挙資金1億5千万円の使途すら説明していないことを忘れてはなるまい。

 カネで世論を動かそうとする行為は民主主義に反する。ましてや憲法の是非を問う国民投票の場に持ち込まれることが、あってはならない。

 目覚ましく発達しているインターネット広告や情報通信技術への対応も課題として残る。10年以上前の法案成立時には想像もつかなかったことだ。民意を無意識に誘導するような広告や、虚偽の情報がスマホなどに作為的に送りつけられている。

 英国の欧州連合(EU)離脱の国民投票では、事実に反する広告も大量に流れ、投票行動に影響を及ぼしたとされる。

 16年の米大統領選でも情報操作があった―。トランプ前大統領に有利になるよう、ロシアが主要ソーシャルメディア全てで実施していたとする報告書を米上院が明らかにしている。

 ネット上の広告に規制がなく、虚偽情報もあふれている。投票の公平性を担保する明確なルールづくりが求められる。

 一定の投票率に達しなかった場合に、投票そのものを不成立とする最低投票率も必要だ。例えば投票率3割の国民投票で、賛成が6割を占めても有権者全体では2割に届かない。これでは、国民投票の有効性に疑問符が付きかねない。

 折しも、コロナ禍で国民みんなが苦しんでいる。政治が最優先で取り組まなくてはならないのは国民投票改正ではなく、感染防止対策ではないか。

 きょうは74回目の憲法記念日である。戦前の大日本帝国憲法とは違い、日本国憲法は政府の権限を制約しつつ、主権者である国民を守るために機能してきた。自由と権利を保障する、よりどころの大切さを、私たちもあらためて考えたい。

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