コラム・連載・特集

「赤木ファイル」はあった

2021/5/8 6:37

 3月のその日、江戸では季節外れの雪が舞っていたという。幕府を支える大老の井伊直弼(なおすけ)が将軍の跡継ぎ問題などで敵対していた水戸藩の脱藩者らに襲撃された。歴史の転換点となった桜田門外の変である▲直弼暗殺に幕府は仰天した。当時の決まりに従って井伊家も水戸藩も取りつぶせば、おのれの屋台骨が揺らぐ。それは避けようと「大老は病気だ」と偽りの文書まで出させた。結局、その死は2カ月近くも伏せられた▲都合の悪いことは隠したい―。時代が移っても権力を握る者はそう考えるようだ。財務省による「森友学園」関連の公文書改ざん事件で、「赤木ファイル」の存在を政府がやっと認めた▲お先棒を担がされ、死を選ばざるを得なかった近畿財務局職員が経緯を細かく記しており、真相に光が当たるかもしれない。そもそも公文書は国民共有の財産。にもかかわらず実際はあるのに「ない」と公開請求に応じなかったのは、森友問題だけで46件にも上る。看過できない▲隠したつもりでも、大老暗殺を目撃した人は多く、すぐ江戸中に広まったそうだ。うそを見透かされて、信用も権威も失った幕府は、命脈を縮めてしまう。そんな歴史の教訓もある。

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

天風録の最新記事
一覧