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ヘイト解消法5年 根絶への行動強めねば

2021/6/12 6:00

 国外出身者とその子孫に対する差別的言動の解消を目指す、ヘイトスピーチ解消法の施行から今月で5年になった。

 野放し状態だったヘイトスピーチを伴う街頭活動(ヘイトデモ)が大幅に減るなど、効果は出ているようだ。

 ただあくまでも「理念法」にすぎず、禁止規定や罰則はない。限界があるのも確かだろう。例えば、インターネット上では依然、ヘイトスピーチが乱れ飛んでいる。ネット上も公共の空間であり、放置できない。

 私たちの社会から差別を根絶するため、知恵と行動が求められている。

 解消法の施行前は、「死ね」「出て行け」「ゴキブリ」などと連呼するヘイトデモが首都圏や大阪などで繰り返されていた。言葉の刃を向けられた在日コリアンたちは、人としての尊厳を踏みにじられ、身の危険を感じることもあった。

 ヘイトデモの抑止を目指したこの法は「不当な差別的言動は許されない」と明記した。国や自治体に相談体制の整備や、住民への啓発・教育活動の充実を求めている。

 施行された後は、ヘイトデモに対して、自治体が公園の使用許可を出さなかったり、裁判所が差し止めを求める仮処分を認めたりしている。公共の場ではヘイトスピーチが影を潜めつつあると言えそうだ。

 問題は、ネット上での対応である。とりわけ経済界の動きの鈍さが懸念される。

 例えば、化粧品会社のディーエイチシー(DHC)は昨年秋以降、自社のウェブサイトに吉田嘉明会長名で、在日コリアンを差別する文章を掲載していた。同業他社を批判した文章には、思い込みによる差別的な表現が使われていた。

 取引先の一つの流通大手イオンが問題視して問い合わせた。その結果、人権に関わる不適切な内容を含む文章を掲載したことの非を認め、同じような行為を繰り返さない旨をDHCから確認することができたという。差別的な文章は5月末、ウェブサイトから削除された。

 半年もの時間がかかった点は看過できない。ただ、イオンが顧客の意見を踏まえて、きちんとDHCに向き合ったことは評価できよう。差別を禁じる独自の人権基本方針を定めて、取引先にまで理解を求めているそうだ。企業の社会的責任を果たす上で重要な取り組みと言える。

 一方、DHCは、差別的言葉をまき散らしたことを反省しているのだろうか。イオンに対しては非を認めたが、公的な説明や傷つけた人への謝罪はしていない。問題をどう認識し、社会的責任をどう考えているのか。疑問は尽きない。

 取引先の中には、問題の文章はヘイトに当たると認識しながら、商品の売れ行きを考えて対応を先送りしていた企業がいたのではないか。DHCのケースを「他山の石」とするためにも、経済界だけではなく、社会としても、ヘイトスピーチをなくす取り組みをさらに強める必要がある。

 国籍や民族に限らない。自分の意思ではどうしようもできない人種や性別、性的指向・性自認といった属性を理由にした、どんな差別も許さない―。そんな強いメッセージを改めて胸に刻まなければならない。

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