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認知症の新薬 効果と課題を見極めよ

2021/6/13 6:36

 認知症の大部分を占めるアルツハイマー病の新たな治療薬が、米食品医薬品局(FDA)に承認された。

 日本の製薬大手エーザイが米バイオ医療品大手バイオジェンと共同開発した「アデュカヌマブ」である。脳内から病気の原因とされる物質を取り除いて、認知機能の低下を遅くする効果があるとしている。

 これまで多くの薬が開発されてきたが、一時的に症状を改善するものしかなかった。アデュカヌマブは、アルツハイマー病の発生メカニズムに直接作用する仕組みで、前例のない治療薬と言える。

 長年求められてきた新薬が米国で承認された意義は小さくない。国内の患者や介護する家族にとっては希望となろう。認知症の克服に向けて、大きな一歩となることを期待したい。

 認知症の患者は世界で5千万人、日本で600万人いると推計され、そのうちアルツハイマー病は6〜7割を占める。

 アルツハイマー病は、神経細胞が壊れて脳の一部が徐々に萎縮し、記憶力や思考など認知機能が衰えていく病気である。進行すれば、日付や自分のいる場所が分からなくなるなど、日常生活にも支障を来す。

 脳内にアミロイドベータという有害なタンパク質が蓄積するのが特徴だ。これが神経細胞を死滅させ、認知機能を低下させると考えられているが、決定的な原因は分かっていない。

 アデュカヌマブは、人が持つ免疫機能を利用し、人工的に作った抗体で脳にたまっているアミロイドベータを取り除く薬だ。神経細胞の損傷の少ない初期段階の患者を主な対象とし、病気の発症や進行を長期間防ぐ効果が期待されている。

 しかし多くの人が利用できる一般的な治療薬として定着するには多くの課題が残る。

 今回の臨床試験(治験)では、記憶障害を改善したり病気の進行そのものを抑えたりする有効性について十分なデータが得られていない。

 死んだ細胞は再生できないため、完治はしない。効果が確認できているのは、発症して間もない軽度のアルツハイマー病患者だけで、症状が進んだ人への有効性は分かっていない。過度な期待は禁物だろう。

 脳浮腫や脳出血が起きるリスクも指摘される。FDAは発売後も有効性の確認を含めて治験の継続を求めている。期待通りの効果が得られなければ、承認取り消しもあり得るとする。

 日本でも承認申請がなされており、年内にも可否について結論が出る可能性がある。米国での動向を注視し、効果と課題を冷静に見極める必要がある。

 薬の価格も大きな問題となりそうだ。バイオ技術を用いた抗体薬で、製造コストが高額になる。2社が示した価格の目安は、月1回の点滴投与で約47万円、年間約610万円だ。しかも治療は長期にわたる。

 高齢化の進展とともに患者は確実に増える。公的医療保険財政を圧迫する事態が懸念される。高額な新薬を国民皆保険制度の中で、どう受け入れていくかの議論も欠かせない。

 家族の介護負担など認知症にかかる社会コストをどれだけ節約できるかなども考慮し、保険を適用する範囲を慎重に検討する必要がある。

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