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NHK経営委 放送法守らぬ者は去れ

2021/7/19 6:02

 報道現場への干渉が越権行為に当たるという認識はなかったのだろうか。かんぽ生命の不正販売問題を報じた番組を巡る、NHK経営委員会の対応は疑問符だらけだ。

 経営委は、NHKの最高意思決定機関だが、経営上の業務執行をチェックするのが本来の務めである。特定の番組批判は、放送法で禁止されている。

 にもかかわらず2018年10月、当時の上田良一会長を厳重注意していた。ようやく全面開示された経営委の議事録には番組の取材手法を「極めて稚拙」「作り方に問題がある」などと批判する内容が記されていた。

 批判した委員の一人は、当時の委員長代行で現在は委員長の森下俊三氏である。経営委の行為は許されるものではなく、森下氏の責任は極めて重大だ。

 発端は、18年4月のNHKの番組「クローズアップ現代+(プラス)」である。かんぽ生命の従業員がノルマに追われ、契約者に不利になるのを承知で商品を不正販売する実態を報じた。

 これに対し、日本郵政側からNHKに複数回の抗議が寄せられた。経営委は問題視し、郵政側の主張に同調する形で番組を批判。会長を厳重注意した。

 不正販売については、翌19年7月に郵政側が「不適切」と認めて謝罪した。郵政側のトップは引責辞任に追い込まれた。経営委が批判した番組内容はほぼ正しかったと、後で証明されたといえよう。

 放送法は、戦前戦中の言論統制と大本営発表の虚偽報道が国民を苦難に陥れた反省に基づき設けられた。放送は、いかなる政党政府からも支配されない自由独立な存在とされる。

 報道現場と取材相手は強い緊張関係で向き合う。そんな中で経営委が権力者の意を受け、番組制作の現場に干渉すれば、真実がゆがめられたり、国民の利益を損なったりしかねない。

 上田会長は放送法違反になりかねないと懸念し「外に出たときには相当の問題になる」と経営委に指摘している。経営委は後ろめたい思いがあったのか、組織のガバナンス(企業統治)の問題に議論をすり替えた。

 もちろん番組に誤報や偏向があれば、それをただすことは当然だ。だがその役割は経営委ではなく、学識経験者などでつくる放送番組審議会が担うことが放送法で義務づけられている。

 外部組織の放送倫理・番組向上機構(BPO)もある。経営委が扱うのは報道ではなく、経営であり、一連の干渉は決して許されるものではない。

 番組報道に基づき、日本郵政側が抗議ではなく、調査を急いでいれば被害はもっと抑えられたかもしれない。経営委は国民の利益を損ねかねない行為をしたことを認め、謝罪すべきだ。

 森下氏は今なお放送法違反を否定し続けている。だが、法で義務づけられている議事録作成と公表を昨年5月以降拒み続け、NHK情報公開・個人情報保護審議委員会の2度の答申を受けて、やっと全面開示した。内容が知られては都合が悪いと感じていたからではないか。

 NHKは、受信料で成り立つ公共放送だ。経営委の責任は免れない。放送の自由、いかなる権力からも独立を確保するために放送法はある。それが守れない者には、NHKの経営委員を務める資格はない。

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