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五輪きょう開幕 負のレガシー残すまい

2021/7/23 6:44

 混乱と迷走、そして大きな不安とともに、東京五輪はきょう開幕を迎える。

 きょう行われる開会式の演出を統括していた小林賢太郎氏を東京五輪・パラリンピック大会組織委員会がきのう解任した。過去にユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)をやゆするようなコントを演じていた。米国のユダヤ系団体などが抗議声明を出すなど、国内外で波紋が広がる。

 「多様性と調和」を掲げた五輪のビジョンを根本から揺るがすだけでなく、国際問題に発展しかねない不祥事といえる。

 開会式のプログラムを巡っては、3月に式典演出の統括役が人気タレントの容姿を侮辱する提案が表面化して辞任。今月19日にも開会式の楽曲担当だった小山田圭吾氏が過去のいじめの反省なき告白で批判を浴び、辞任に追い込まれたばかりだ。

 次から次へと不祥事が起きるのは、組織委の企画立案に問題があったと言わざるを得ない。組織委はしかし、これまで人選に関わる経緯や理由などについて説明責任を果たしていない。

 問われるべきは、組織委の統治能力であり、人権意識である。当事者の解任、辞任だけで済ませるわけにはいかない。

 新型コロナウイルス禍の影響で、東京五輪は史上初めて1年延期となった。しかも開催都市の東京は感染の再拡大が止まらず緊急事態宣言下にある。前例のない異形の大会と言えよう。

 国立競技場で行われる開会式をはじめ、大半の競技会場は感染防止のために無観客となる。「コロナに打ち勝った証し」という前提は崩れた。市民はもちろん、選手同士の交流機会さえ制限され、スポーツを通した国際理解から世界平和を目指す五輪の理念も薄らいでいる。

 コロナ下での五輪開催には、いまだに国民から厳しい視線を向けられている。トヨタ自動車やパナソニックなど国内スポンサー企業の経営トップも開会式などへの出席を見送る方針を相次いで表明し、五輪と距離を置く姿勢を鮮明にしている。

 それでも開催を強行する五輪の意義はどこにあるのか。

 誘致の際に掲げられた、東日本大震災からの「復興」という大会のスローガンはいつの間にか薄れた。コロナの感染が広がると「コロナに打ち勝った証し」にすり替わった。

 菅義偉首相は「安全・安心な大会」と繰り返し強調するが、国民の納得を得られたとは言い難い。大会の中止や再延期について問われてもはぐらかし、誰のための、何のための五輪かについて語ろうとはしなかった。もはや開催自体が目的になったと言われても仕方あるまい。

 東京など首都圏では新規感染者が再び急増している。海外から来日した選手や大会関係者の感染も相次ぐ。「五輪発」の感染拡大が起きれば、負のレガシー(遺産)になりかねない。政府と組織委はそうした事態を絶対に防がなければならない。感染がまん延すれば、競技の中断や中止という判断もあり得る。

 開会式に先立ち一部の競技は始まっている。どんな状況にあっても、さまざまな不安やプレッシャーと闘いながら厳しい練習に耐えてきた選手たちがベストを尽くせるよう心から願う。逆境を乗り越えて躍動する姿を見せて、コロナ禍にある世界の多くの人を勇気づけてほしい。 

#東京五輪・パラ

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