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日銀と気候変動対策 透明性と妥当性、確保を

2021/7/27 6:46

 日銀が気候変動対策への民間金融機関の投融資を後押しするため、新たな資金供給制度を導入する方針を打ち出した。

 脱炭素につながる設備投資などをする企業向けの資金として金融機関に金利ゼロで貸し付ける。期間は原則1年だが、2030年度までは何度でも借り換えられ、長期的に活用できるようにする。金融機関が日銀に預ける当座預金にかかる金利が0%となる部分を増やし、マイナス金利の負担を軽減する優遇策も設け、年内に運用を始める。

 菅義偉首相は、50年度までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロ(カーボンゼロ)にすることを掲げた。政府は基金を創設するなどして企業の取り組みを後押しする。日銀の新制度はそうした動きを金融面から支援する狙いがあるのだろう。政権への配慮も透ける。

 もちろん地球温暖化への取り組みは喫緊の課題で、世界で脱炭素の機運が高まっている。温暖化をリスクと捉え、日銀が対応策を探ることは理解できる。

 ただ、日銀の本来の役割は物価と金融システムの安定と定められている。特定分野の政策に関与を強めれば、中央銀行としての独立性や中立性を損ねる恐れがある。慎重な議論と丁寧な説明が求められるのは当然だ。

 日銀は、今回の対応の理由について「気候変動が中長期的には経済や物価、金融システムにも極めて大きな影響を及ぼす可能性がある」と説明する。

 国際的にも同様の議論があり、中央銀行が金融政策で気候変動問題を考慮する流れが強まっている。

 3月には、英国のイングランド銀行が脱炭素社会への移行を金融政策運営の使命に加えた。欧州中央銀行(ECB)も金融政策の一環として脱炭素への取り組みに積極的に関わっていく姿勢を明確にしている。

 カーボンゼロを達成するには巨額な資金が必要になる。国際エネルギー機関(IEA)によると、脱炭素化に向け必要な投資額は、エネルギー関連だけで40年度までに世界で67兆8千億円に上る。対応を迫られる企業を金融面で支える必要性は増しており、先行する欧州の動きが日銀の背中を押したのは間違いないだろう。

 だが一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は「気候変動は、金融政策を決める際に直接考慮するものではない」とし、慎重な姿勢を崩していない。

 気候変動対策はあくまで政府が財政や税制で工夫し、政策で対応すべき領域であるとの指摘も出ている。間接的であっても特定の分野に重点的に資金を流せば、中立性の観点から問題になるだけでなく市場や経済活動をゆがめてしまう懸念がある。

 そうした点を踏まえ、日銀は、新制度では支援対象とする投融資の内容が脱炭素対策に貢献するかどうかの判断は金融機関側に委ね、「後方支援」に徹する方針だ。投融資の是非に立ち入れば、企業の選別につながりかねないからだ。

 中立性を担保する苦肉の策と言えるが、効果の疑わしい資金の利用を防ぐために、目的通りに使われたかどうかをチェックする仕組みが不可欠だ。金融機関や投融資先の企業に十分な情報開示を求め、透明性と妥当性を確保しなければならない。

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