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ワクチンパスポート 慎重な運用を求めたい

2021/7/29 6:46

 新型コロナウイルスのワクチン接種歴を公的に証明する「ワクチンパスポート」の動きが出てきた。接種を済ませた人の行動制限をどう緩和していくか、大きな流れの中では考える必要があろう。欧州連合(EU)のように先行する例もある。

 しかし、きのう全国で新規感染者が過去最多に達するなど、状況は予断を許さない。国内でワクチンパスポートを普及させ、経済活性化への「カンフル剤」とみなすことについては、なお慎重であるべきだ。

 ワクチンパスポートの申請受け付けは26日、全国の市区町村で始まった。当面は海外へ出国する人が対象である。使用可能な国の入国審査で提示すれば、隔離やPCR検査の免除といった優遇措置が受けられる。

 日本はイタリアなど7カ国を対象とする。さらに増えれば、海外への渡航が必要な人にとっては朗報といえるだろう。

 とはいえワクチンパスポートを条件とする渡航再開は「相互主義」が原則。相手国からの入国規制も緩和するのが筋である。五輪開催中にも感染拡大が続く中、水際対策は重要で、規制緩和は世論が受け入れまい。ワクチンパスポートを一気に普及させるにはリスクが伴う。

 国内での活用にも疑問符が付く。経済界はイベントや旅行、飲食などの復調を期して普及を提言している。長引く関連業界の苦境は理解できるし、接種の時に交付される「接種済み証」の提示で代金を割り引くといったサービスはあっていい。

 しかし、接種した人と接種していない人を国が区別し、それによって不当な差別を受けたり、不利益を被ったりする事態は避けなければならない。

 今月中旬の本紙くらし面では「ワクチンハラスメント」について読者の声を取り上げた。ある読者は勤務する福祉施設で「職員のワクチン接種は当然」という雰囲気が生まれて戸惑った。事情のある人には配慮するようなひと言を求めている。アナフィラキシーショックで入院した経験のある読者は、接種しない自分が飛行機の搭乗やコンサートの入場などで、どう扱われるか心配になるという。

 フランスでは最近、美術館などの入場に「衛生パス」の提示が必要になったが、「選択の自由」を求める抗議デモが全土で起きている。それでもマクロン政権は強硬にワクチンパスポートの運用拡大を進め、その結果として国民を分断しているのは由々しき事態といえよう。

 ワクチン接種だけを何かの条件にしないことが大切だ。接種していなくても「陰性証明書」などを生かす手もあろう。

 一方で、ワクチンを2回接種した人が感染するリスクは低下しているもようだ。予防効果は一定に証明されつつあるが、接種が感染対策の緩みにつながらないようにすべきである。日本のメダルラッシュが続く東京五輪も、一種の「高揚感」を醸成してはいないか。それは緊張感が薄らぐことと裏腹だろう。

 小池百合子東京都知事は「若い人もワクチンを」と重ねて呼び掛けている。まずは耳を傾け、納得した上で接種してもらいたい。友人にも勧めてほしい。

 パンデミック(世界的大流行)ではあるが、強権を用いることなく、終息へと向かうための知恵と努力が求められる。 

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