「原爆の日」特集

市民の連帯で理想像示す 広島平和宣言、具体的提言少なく

2021ヒロシマ2021/8/6 21:47

 核兵器禁止条約が1月に発効し、初めて迎えた原爆の日。広島市の松井一実市長は平和記念式典で読み上げた11回目の平和宣言で、国境を越えた市民の連帯で核兵器の廃絶を目指すとする自らの理想像を示した。ただ、市民や政治家たちに行動を促す具体的な提言に乏しく、被爆地から発するメッセージとしては捉えどころのない印象も与えた。

 「核兵器は要らない」との価値観を世界中の市民で共有し、選挙を通じて政治家たちの核政策を変える―。松井市長が「平和文化」「市民社会の総意」といった独特の言葉遣いで表す廃絶への道筋を要約すれば、こうなる。

 核兵器を史上初めて違法化した禁止条約には目もくれず、米国や英国、ロシア、中国といった保有国は、核戦力の近代化や強化を進めている。松井市長は「宣言では方法論以上に、一緒に目指す価値観がどのようなものかを言う必要があると考えた」と語る。

 かたくなな各国の姿勢を転換させるため、廃絶や平和への意識をより市民に根付かせたいという思いは分かる。ただ、それには時間がかかるのは間違いない。

 松井市長が会長を務め、世界8千都市以上が加わる平和首長会議は7月に定めた指針や計画で、芸術・スポーツを通じた「平和文化の醸成」を強調する一方、前の指針で明記していた廃絶の目標年限を消した。一日も早い核兵器のない世界の実現を願う被爆者の心情と離れていないか。

 「平和文化」を、被爆地広島でどう育むかも見えてこない。

 たとえば、6月に市議会が制定した平和推進基本条例と、中央公園広場(中区)のサッカースタジアム建設予定地で見つかった旧陸軍の被爆遺構の保存。市民の意見が割れる中、「異なる意見に耳を傾け、着地点を探る」という議論のプロセスが軽んじられていなかっただろうか。それこそが、平和の礎となる営みであるにもかかわらずだ。

 核兵器廃絶へ世界の市民と共に歩むため、明確なメッセージと、それに矛盾しない行動が、広島に求められている。(明知隼二)

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