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食料自給率、過去最低 政策に危機感見えない

2021/9/10 10:18

 2020年度の食料自給率はカロリーベースで過去最低の37%となった。歴史的な大凶作に見舞われたわけではないのに、ここまで下がったのは、深刻な現状の証しだと言えよう。

 今後も世界の人口は増え続け、30年後には約20億人多い97億人余りにまで達するという。食料需要が確実に膨らんでいく中、大半を海外に依存している危うさを、私たちは直視する必要がある。安定供給を確保する「食料安全保障」の考えに明らかに反している。

 自給率は1960年代半ばには70%を超えていた。その後はしかし、低落傾向に歯止めをかけられないままだ。戦後、食生活が欧米風に変化してコメの消費量が減り続ける一方、原料の小麦を輸入に頼るパンなどの消費が増えたためである。

 加えて、20年度は新型コロナウイルスの影響があった。感染拡大の防止対策によって外食産業から客足が遠のき、コメの需要が減少した。小麦の国内生産が、豊作だった前年度に比べて減ったこともあって、自給率は前年度より1ポイント低下した。

 37%というのは、記録的冷夏で後に「平成の米騒動」と呼ばれる米不足に陥った93年度と、天候不順で小麦などの国内生産が減った18年度と並ぶ低さだ。米国の132%や、ドイツの86%、英国の65%に比べ、水をあけられている。

 政府は自給率を30年度に45%まで引き上げる目標を掲げている。昨年策定した先行き10年の農政指針「食料・農業・農村基本計画」にも盛り込んだ。15年に改定した基本計画で、目標を従来の50%から引き下げ、今回もそれを踏襲している。

 基本計画では自給率低下は食い止められそうにない。農業を主な仕事とする「基幹的農業従事者」や農地面積といった生産基盤の先細りをどう食い止め、逆に拡充させるか、実効性ある具体策に乏しいからだ。

 このまま自給率がさらに下がれば、国民の命や健康の問題にもつながりかねない。政府の政策は危機感を欠いている。

 政府が強力に推し進めた環太平洋連携協定(TPP)や、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)で、輸入食料品の値段が下がった。消費者目線では歓迎できようが、食料安保の面からは不安が残る。

 工業製品などの輸出のため、国内農業にしわ寄せがいけば、自給率はさらに下がる恐れがあるからだ。行き過ぎた市場競争原理の農業分野への浸透は、ただでさえ生産基盤の弱い中国地方の中山間地域の農業などへの大きなダメージともなろう。

 食料を他国に依存するリスクから目をそらしてはならない。地球温暖化による気候変動で、干ばつや大雨被害が穀物の生産地で起きれば収穫が激減し、価格が高騰しかねない。

 感染症や国際紛争の発生で輸入が難しくなる恐れもある。食料争奪戦は取り越し苦労とはいえまい。実際、不作に加え、コロナ禍によるコンテナ不足で海上輸送費が上昇したため、小麦や大豆が値上がりしている。

 政府は成長戦略の一つとして付加価値の高い果樹などの輸出を増やそうとしている。そうした「攻めの農政」も必要なのかもしれない。しかし国民の食べ物を自国で賄う視点をおろそかにすることは許されない。 

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