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侮辱罪の厳罰化方針 ネット中傷ない社会に

2021/9/19 6:53

 会員制交流サイト(SNS)などインターネット上で目立つ誹謗(ひぼう)中傷に対応するため、侮辱罪に懲役刑を導入するなど刑法改正を検討するよう、上川陽子法相が法制審議会に諮問した。

 現行の法定刑である「30日未満の拘留か1万円未満の科料」に、「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」の追加を検討する。改正されれば、公訴時効も現行の1年が3年に延びる。

 侮辱罪はネット中傷に対応できているとは言えない状況だった。刑罰は軽犯罪法と同じ軽微な扱いだ。逮捕されることはまれで、犯人をそそのかしたり、手助けをしたりした人は処罰もできなかった。また、投稿者の特定に時間がかかるのに時効が短く、「逃げ得」が多かった。厳罰化の検討は遅すぎた感さえある。

 昨年5月、プロレスラー木村花さん=当時(22)=が中傷を受け、命を絶つという痛ましい出来事が起きた。テレビ出演を巡り「死ねやくそが」「きもい」といったSNS投稿が繰り返された。匿名による卑劣な中傷が木村さんを死へと追い詰めたとみられる。責任は極めて重い。

 ところが、書き込みをしたとして侮辱罪に問われたのは2人の男だけ。処分はいずれも科料9千円だった。人が亡くなったのに「軽すぎる」という批判が相次いだのも当然だろう。

 木村さんのような悲劇を二度と繰り返してはならない。そのためにも、法整備など対策を強め、匿名で他人を中傷するような行為を根絶せねばならない。

 文部科学省の調査によると、ネット上での中傷の件数は2019年度、1万7924件。5年前の2倍以上に増えている。一方、法務省が昨年、ネットでの人権侵害に対し、プロバイダーなどに削除を要請したのは、過去最多の578件に上った。それでも対応できたのは、氷山の一角と言わざるを得ない。

 4月に成立した改正プロバイダー責任制限法は22年中に施行される。中傷された被害者が匿名の投稿者を特定するには、現行では手続きが2回必要だが、新たな裁判手続きを創設し、1回で済むよう改める。投稿者を素早く把握できれば、被害者が刑事告発しやすくなる。

 この改正制限法と刑事処分が機能的に運用できるよう法整備も急ぐべきだ。プロバイダーが不適切な書き込みを自主削除する取り組みや、中傷された人が相談できる専用窓口の開設なども進めねばならない。

 一方で、気がかりなのは表現の自由との兼ね合いだ。

 ネット上では誹謗中傷ばかりではなく、正当な批判を投稿するものもある。ところが厳罰化を受け、政治家や企業といった力を持つ側が、自らに批判的な投稿を封じ込めようとすることも考えられる。過度に監視したり、圧力をかけたりといった乱用を警戒する必要がある。

 圧力を恐れ、自由な言論が後退するような風潮につながってはならない。投稿者の権利を守り、表現の自由に配慮することも同時に求められる。

 情報通信リテラシーの啓発が遅れているのが日本の現状だ。ネット中傷を受けた被害者保護の法整備も不十分だった。木村さんの悲劇を二度と起こさないためにも法制度の強化に加え、社会全体の人権に対する意識を高めていくべきだ。

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