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性犯罪の処罰拡大 被害者の声、反映させよ

2021/9/21 6:47

 性犯罪について処罰の範囲を広げるかどうか、法制審議会が本格的な検討に入る。先週、上川陽子法相が諮問した。

 刑法の性犯罪を巡る規定は2017年7月、明治以来110年ぶりに改正された。強制性交罪で法定刑の下限を懲役3年から5年に引き上げるなど、厳罰化された。しかし依然として立件のハードルは高く、適正に処罰されない例がある。

 19年春には、娘に性的暴行を繰り返した父親を名古屋地裁岡崎支部が無罪とするなど、無罪判決が4件相次いだ。これをきっかけに、性暴力に対する無理解や法の不備を訴える声が高まった。勇気を奮い、被害者が告白するのは、同じ痛みを味わう人をもう出したくないからだ。その声や被害実態を反映した見直しを急がねばならない。

 最大の論点は、「暴行・脅迫要件」の拡大である。捜査や裁判では、どれだけ激しく抵抗したかが問題になることが少なくない。ただ、現実には恐怖や混乱で体が動かなくなってしまう被害者も多く、罪に問えないケースもある。

 実態に合わない要件は、一刻も早く見直す必要がある。

 被害者や支援団体からは、同意のない性交を処罰の対象とするよう求める声も上がっている。しかし、法務省の有識者検討会では「処罰の範囲が不明確になり、冤罪(えんざい)が生まれる」との反対意見も出て、結論には至らなかったという。

 同意があったかどうかは確かに、当事者間でしか分からない。とはいえ冤罪を防ぐことと処罰対象を絞ることは別の問題ではないか。

 内閣府による昨年の「男女間における暴力に関する調査」では、女性の14人に1人が、無理やり性交をされた経験があると答えている。処罰拡大には、被害を未然に防ぐ役割も期待されている。対象を広げつつ、取り調べに弁護士が立ち会うといった冤罪防止の対策を両立させる道を探ってもらいたい。

 論点は、多岐にわたっている。その一つは、公訴時効の問題である。強制性交罪の公訴時効は10年で、「短すぎる」とかねて指摘されてきた。

 性暴力は「魂の殺人」とも言われる。精神的ショックや社会の偏見などから、被害を訴え出ることが難しい。その上、未成年に限らず、大人でも犯罪に遭ったと自覚できないケースも珍しくないという。被害を届け出るまでに20年前後の歳月がかかるケースもあり、時効が10年のままでは加害者の刑事責任を問えないことになる。

 被害者が、泣き寝入りするようなことがあってはなるまい。時効の撤廃や延長を議論した有識者検討会では、撤廃には慎重意見が相次いだものの、延長については目立った異論はなかったという。

 性交に同意する能力があるとみなされる年齢の引き上げも、論点の一つだろう。現行法ではいまだに13歳と、明治時代の制定当時のままである。教員が教え子に、上司が部下に―といった、地位を悪用した行為の処罰も検討が急がれる。

 処罰対象の拡大も厳罰化も、性犯罪の重みを社会が受け止め、未然に防ぐ施策につなぐことが欠かせない。当事者の声をしっかりと聞き、丁寧に議論を重ねるべきである。

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